徒然読書日記202212
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2022/12/28
今年の三冊
誰に頼まれたわけでもないのに、徒然なるままに「読書日記」を綴り続けている暇人が、満を持してお届けする。今年もいよいよ、毎年 恒例の「マイ・ベスト」発表の日がやってまいりました。なお、「今年の三冊」と言っても、「今年私が読んだ」ということで、発表された のは必ずしも今年とは限りませんので、そこのところは、どうかお許しくださいね。
「ノンフィクション部門」
(国内編)
『謎ときサリンジャー』 ―「自殺」したのは誰なのか―
(竹内康浩 朴舜起 新潮社)
『鴎外の恋 舞姫エリスの真実』
(六草いちか 河出文庫)
『変調「日本の古典」講義』 ―身体で読む伝統・教養・知性―
(内田樹 安田登 祥伝社)
(海外編)
『24/7眠らない社会』
(Jクレーリー NTT出版)
『世界は「関係」でできている』 ―美しくも過激な量子論―
(Cロヴェッリ NHK出版)
『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』
(Kバーネット 角川文庫)
「フィクション部門」
(国内編)
『テスカトリポカ』
(佐藤究 KADOKAWA)
『ピノ:PINO』
(村上たかし 双葉社)
『身分帳』
(佐木隆三 講談社文庫)
(海外編)
『見知らぬ場所』
(Jラヒリ 新潮クレストブックス)
『紙の動物園』
(Kリュウ ハヤカワ文庫)
『三体U 黒暗森林』
(劉慈欣 早川書房)
それでは、皆さま、どうぞよいお年を。
2022/12/11
「まず牛を球とします。」 柞刈湯葉 河出書房新社
都庁に就職した初日、交通安全責任課の課長はただひとりの新人であるわたしのために、わざわざ「新人のための業務説明会」なる スライドを作って説明をしてくれた。東京都内を走る自動車40万台のうち、1万台がわたしの責任担当車になるそうだ。
「これらに交通事故があった場合、きみに責任をとってもらうことになる」
凶作による食料不足を農業技術で克服し、細菌による感染症を抗生物質で撲滅し、超過勤務による過労死を徹底した労働管理システムで根絶し 等々、という近未来。<人の運転による交通事故>も当然過去の恐怖となってしまったために、ごく稀に発生する事故の被害者が納得できる よう、責任をとって仕事を辞めるための部署。それが『東京都交通安全責任課』だった。
<AIが進歩すれば人間の仕事は責任を取ることだけになるだろう>という滑稽さを描いたこの作品を含め、新進気鋭のSF作家による14編 の短篇集である。
人間は牛を食べたいが、動物を殺したくはない。そこで牛の受精卵をゲノム編集で球体に成長するようにし、脳も感覚器官もない牛を作ろう という発想が生まれた。「あの、牛は、目を回さないのでしょうか」「回す目がありません」(笑)
小学生のときに見た算数オリンピックの問題集に、降雨量や移動距離、歩行速度などの条件を指定し、「太郎君が浴びる雨水の量を計算せよ」 という問題があり、「ただし、太郎君は下図のような直方体とする」と無機質な箱型の図が絵が描かれていた衝撃が、『まず牛を球とします。』 という表題作につながった、とあるように、筆者は「実験室でプラスチックを振るのが仕事です」と揶揄する<染色体設計>の科学者でもあり、 つまりは極めて理科系に親和性の高い傾向になっていると思う。
家に帰ると、妻が真っ暗な台所で料理を作っていた。「危ないよ」と言うと、「ゴメン、忘れちゃった」とリビングの方にちょっと指を向け、 パチッと点けた。どうやら妻は、電灯をつける時はスイッチに触る必要があることを忘れているらしい。(『家に帰ると妻が必ず人間のふりを しています。』)
煉瓦造りの3階建てに被せられた、山高帽を思わせるドーム屋根が割れ、黒い魚のような筐体が突き刺さっている。「あれが、原子爆弾か」 長崎の原爆が予定通りに爆発し、日本が降伏して、合衆国は史上最悪の不発弾を抱えた広島を占領統治せねばならなくなった。(『沈黙の リトルボーイ』)
などなど、関係性を有する架空概念を作中世界に放り込むことで、作者さえ名前を知らぬ派生的な概念を連鎖的に生成して、広大な宇宙を構築 してみせるのだ。
さて、「確率はほとんどゼロ」だと説明されていた事故が起こり、5年も勤続している先輩よりも、1年目で責任担当台数も少ない自分が辞任 する破目になり、もう東京に住むだけの家賃も払えず、実家に強制送還されることになった<わたし>は、どうしても納得できないところが あり、意を決する。
都庁のエレベーターを昇り、「雇用人事責任課」のドアを叩いた。そもそも労働者のほとんどいない東京で、交通安全課を押しのけて 「都庁でもっとも暇」と言われている部署だ。仕事をしてもらおう。
2022/12/1
「臨機応答・変問自在」―森助教授VS理系大学生― 森博嗣 集英社新書
Q 負けず嫌いという日本語はおかしいと思いませんか?負けないことが嫌い、つまり「勝つことが嫌い」になるのでは?
A これは面白い問題で、1分ほど考えました。「食わず嫌い」という言葉から推察できるように、「負けず嫌い」とは、負けるのが嫌なので、 勝負をしない人のこと、という意味では。
人気ミステリィ作家で国立大学の建築学科の教官が、授業の中で学生全員に毎回質問をさせ、個々に短い回答を付けて次週の授業のときに プリントで配って説明する。そんな講義を20年も続け集まった3万以上の質疑回答(もちろん専門の建築に関することが大半だが)から、 一般の人向けのものをピックアップした問答集である。
興が乗ったと思われる冒頭のような例を除けば、返答はむしろ突っ慳貪なものばかりだが、質問や回答の情報内容に価値を求めているわけでは ないことに注意しよう。問われているのは、その問答のしかた(あるいは雰囲気)、そして意識(あるいは姿勢)なのであり、学生はその質問 内容だけで(無試験で)成績を評価されるのだ。
というわけで、<大学の教師に残された役目とは、学生の質問に答えることだけ>と考える筆者の、質問に対する答え方の基本的な心得 (テクニック)とは、
@情報を問う質問には、情報が存在する範囲で答え、その情報を得る方法を教えれば良い。
A意見を問う質問に関しては、意見を誇張してずばり答えるか、あるいは、その意見を問う理由、意見を一つに絞らなければならない理由、 を問い返す。
B人生相談、あるいは哲学的な質問に関しては、まず定義を問い返す。
C個人的な質問に関しては、ある面は誇張して答え、ある面はかわす。
D自分で解決しなければ意味がないことを気づかせる。
と、たった今独断と偏見で思い付いたそうなのだが、質問と回答は一対一でも、他の学生もそのやり取りを見ているのである程度の アトラクションも必要だという。
Q どうして鉛筆で書いた文字は消しゴムで消えるのでしょうか?
A 紙の粉がゴムに付着するからでは?それとも、もっと哲学的な返答を望んでいるの?
Q 1日の長さが24時間なのに人間の体内時計が25時間とずれているのは何故でしょうか?
A どうして一致していないといけませんか?一致している方が不思議では?
Q 今の日本は本当に不況なのでしょうか?なんだか騙されている気がします。
A そういった自問にこそ価値がある。ところで、不況って何が悪いのでしょう?
Q 電話はどうして聞こえるのですか?
A 聞こえるのは人間、ここは子供相談室ですか?本気で疑問に思っているなら調べましょう。
Q 時速10キロくらいでヘルメットをつけた人が額のところで正面衝突すると顔は悪くなりますか?
A 文章を推敲しなさい。・・・
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