徒然読書日記202203
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2022/3/22
「変調『日本の古典』講義」―身体で読む伝統・教養・知性― 内田樹 安田登 祥伝社
「変な話」のし甲斐があるのは、お互いに「変な話」を広げ、深めてゆくというかたちのものです。そういう対談相手として 安田登さんは望みうる最高の相手です。
という内田樹が、安田から「これまで一度も聞いたことのない話」を聞いて、自分も「これまで一度も僕の脳裏に浮かんだことのない話」を したかったと吐露すれば、
最初に内田さんが手を入れてくださったのですが、それを読んだら、新しい話が入っていて、これがまためっぽう面白い。「それならば」 と安田が手を入れて送れば、それを読んだ内田さんがまた・・・
このまま続けていくとどこに行ってしまうのかわからないし、「そろそろここら辺で一旦手打ちを」と相成ったと、安田登が上梓に至った経緯 を白状する。そんな風にして出来上がったこの本が「面白くないわけがない」という折り紙付きの、これは「武道家」と「能楽師」による極上 の対談記録なのである。テーマは一応『論語』と「能楽」をめぐる、ということになっているのだが、たとえば『論語』を巡って交わされる キャッチボールだけでも、
内田 安田さんが『論語』を身体感覚で読み始めたきっかけは何ですか。
安田 論語の中の漢字のほとんどが身体に即した文字なのです。
内田 なるほど、今の文字との一番の違いは何ですか。
安田 特に目立つのは「心」を含む字が少ないことですね。
<あの有名な「四十にして惑わず」の「惑」という字は、孔子の時代にはまだなかったんです。>(安田)
「或」という字は、戈で場所を「区切る」という原意であり、「不惑」とは「不或」で「区切らず」。自分に制限をつけないという意味になる というのである。
<とすると、こんな年齢でこぢんまりまとまるなよ、と。なるほど。いや、たしかにそうですよね。40歳って、わりとまとまりやすい時期 ですよね。>(内田)
なんて話を皮切りに、<なぜ六芸は「礼」から始まるのか>などなど、目から鱗でありながら、胃の腑にストンと落ちるという、内田本の いつもの展開が続き、「今までそんなこと思ってもいなかった」くせに、「そう、そう、オレもずっと前からそう思っていたんだよ」と、 快哉を叫びたくなるような話が満載なのだ。
ちなみに、「礼」とは「鬼神を祀る儀礼」(@白川静)のことなのであり、人知の及ぶ限界を確定するときの「一番遠い線」ゆえに、第一の芸 に位置づけられている。そして、第二の芸に「楽」が置かれるのは、それが「もう過ぎ去った時間」を手元に引き留め、「まだ到来していない 時間」を先取りする能力を必要とするからだ。「礼」も「楽」も、「今ここには存在しないもの」と関わる能力を要請するものであるとして、 重きを置かれているのだろう、というのである。
なんて話をご紹介していたら、あっという間に予定の行数を消費して、「能楽」の話には触れることさえできなくなってしまったが、一冊丸ごと 引用して差し上げたいくらい、超おススメの日本文化論である。後はご自分でお読みいただきたい。絶対に後悔しないことは、暇人の保証付き である。
これから先、若者たちの中から「出家」したり、「諸国一見」の旅に出たり、伝統的な芸能や技術の修得のために師匠に「弟子入り」したり ・・・という生き方を選ぶ人が増えてくるんじゃないかという気がします。でも僕たちが豊かで多様な伝統的な文化的資源に養われて日々 暮らしているということが感知されたとき、どうすれば昔の人たちの思いや感情と交流できるのか考え始めたとき、そういう生き方はごく自然に 選ばれるのではないかと思います。(内田)
2022/3/19
「宗教図像学入門」―十字架、神殿から仏像、怪獣まで― 中村圭志 中公新書
本書は、諸宗教のシンボルや図像、空間的な表象を横断的に眺めて、古典的な宗教の世界観をまた違った角度から紹介することを 狙いとしている。
というこの本は、これまでに<大宗教の歴史と教えの簡便なガイド>と<主要な経典の総合ガイド>を上梓してきた著者による、3冊目の 中公新書である。今回、この手練れの宗教学者が手にした武器は、――「図像学」(iconography)
絵画や彫刻のあれこれの表現の意味や歴史的な由来などを体系的に研究するというこの学問を駆使し、宗教の垣根を越えた多彩なモチーフごとに 拾いあげることで、宗教がドグマや戒律や経典ばかりで成り立っているのではなく、美術のような感性的なものが果たす役割も大きいことを、 実感させてあげようというのである。
たとえば、諸宗教の「シンボルマーク」一つ取ってみても、
処刑具であった十字架を用いる「キリスト教」。
太陰暦の儀礼開始の合図の新月を採用した「イスラム教」。
オームという聖音を文字で印した「ヒンドウー教」。
釈迦の教えが広まる様を象徴する車輪を記号化した「仏教」。
などなど、他宗教との識別のために採用されたものとはいえ、その図形そのものには、歴史的な由緒があり、教理や理想が封入されていることが わかるのである。
このほかに取り上げられたものとしては、絶対存在、開祖、聖人、聖母、儀礼、修行、悪魔、陰陽、錬金術、文字、聖典、霊符など、興味深い モチーフが目白押し。そんな著者の目配りが、狭い意味での図像だけではなく、寺院や教会、整地や巡礼地、塔と宇宙図、桃源郷などの空間的な 構造にまで行き届いているのは、「神話や儀礼からなる宗教の世界観は、霊的象徴を通じて自然空間に広がり、儀礼を通じて身体、祭壇、神殿、 環境、世界全体のそれぞれを対応させる」からだ。
小宇宙(ミクロコスモス=人間の身体)と大宇宙(マクロコスモス=環境世界の全体)との照応関係を説くことこそが、西洋でも東洋でも、 およそ宗教なるものに一貫して共通する「世界観」の形而上的奥義であるというのが、この宗教学者の主張するところなのである。
宗教とは論理と感性が絡み合う形で成立している文化であることをイメージトリップを通じて理解して欲しいという、この著者の思いは、 多くのページを溢れんばかりに彩っている、数々の図像(些か稚拙なものにかえって味があるような・・・)を見れば、十分に感じ取ることが できる。「宗教」という人類の叡智が育んできた「文化」こそは、まさしく「イメージの宝庫」なのだということを。
章を進めるごとに現れる宗教的視覚表現の新たな地平に、感性的論理の多次元性を看守していただけたとすれば、本書の目的は達成された ことになる。
2022/3/9
「モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか」 田中道昭 インターナショナル新書
2019年度まで市販製品が一つもなく、製品販売からの売上高はゼロだったモデルナは、なぜ他の名だたる大手製薬会社を越える 速度で新型コロナウィルス・ワクチンの開発に成功し、これほどの大躍進を遂げることができたのか。
<ここで指摘しておきたいのは、アマゾンとの類似性です。>
というこの本は、立教大学教授でテクノロジー企業分析の第一人者が、DXにより変革を遂げた「次世代ヘルスケア産業」を活写した、瞠目の 分析レポートである。
インフルエンザなど従来のワクチン接種では、病原性を弱めた「ウィルス」という、タンパク質そのものを投与することが一般的であったのに 対し、モデルナが開発したワクチンは、「mRNA」という「自分の細胞が自らタンパク質を作るための設計図」を投与するという、全く発想を 異にするものだった。実際、この手法を採用したことにより、モデルナは新型コロナウィルスの遺伝子情報公開からわずか3日でワクチン候補の 設計を完成させてみせたのである。
「モデルナが創業間もない他のバイオテクノロジー企業に勝る主なアドバンテージの一つは、そのmRNAが・・・一度に複数の疾患とたたかう ことに集中することができる点です」(CNBC『ディスラプター50企業』)
商品やサービスの提供者と、その購入者が取引するための「共通の場」のようなものを構築しようという「プラットフォーム」戦略。それは、 オンライン書店として創業しながら、既存の電子商取引小売りとは一線を画し、ありとあらゆるものを販売する「エブリシングストア」から、 今では物流から金融までをもカバーする「エブリシングカンパニー」へと変貌を遂げつつある、あのアマゾンが辿った成長の道筋と重なって 見えてくる。
<モデルナとは「製薬業界のアマゾン」なのだ。>
mRNAがソフトウェア的、デジタル的、プラットフォーム的性格を有している点に注目した、それはモデルナのまさにテクノロジー企業として の発想だった。このプラットフォーム戦略が機能するならば、アップル「iOS」やグーグル「アンドロイドOS」上でスマホアプリが開発 されるのと同じように、そこでは生命活動の基礎となるさまざまなアプリケーション=「タンパク質」が開発されるだろうという、これは そういう思想なのである。
では、<日本企業がモデルナから学ぶべきことは何か?>
一つ目は、モデルナがプロジェクトを推進してきたプロセスの中に、大企業がイノベーションを起こすヒントがあるのではないかということ。
二つ目は、企業の経営者や社員一人ひとりが創業者や起業家としての使命感や危機感を持つことが、イノベーション実現のためには不可欠である ということ。
三つ目は、組織のミッションをメンバー全員に共有し、それが従業員一人ひとりの自己実現の目標となることで、それを競争優位にまで高めて いくこと。
それが変化を躊躇する日本企業が、アマゾンや、アップルや、アリババといった「スタートアップのような大企業」に生まれ変わるための肝だ というのである。
超長期的なビジョンなくしてビジネスの成長はなく、起業家マインドなくして企業を丸ごと刷新することは敵わず、そしてミッションの共有 なしに組織は動かない。この3つはモデルナに限らず、成長著しいスタートアップには共通して見られるポイントかもしれません。
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