徒然読書日記201804
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2018/4/19
「できるだけがんばらないひとりたび」 田村美葉 KADOKAWA
かつての私は、旅行代理店のパックツアーに数十万円のお金を払ったんだから、絶景に感動して、 美味しいものを食べて、みんなに喜ばれるお土産をスーツケースに詰め込んで、「せっかくなのだから、最大 限楽しまなければいけない!」と、ヘトヘトになってしまっていたのです。
<実を言うと、「旅」にはずっと苦手意識がありました。>
などという告白を耳にすれば、ああ、きっとこの著者の父親は何ヶ月も前から食事の時間割まで検討する など、スケジュールの空白を埋め尽さずにはおられないような「空白恐怖症」で、そんな父親に引き摺り 廻された、幼いころの悲惨な家族旅行の思い出がトラウマになってしまったのに違いあるまいと、心からの 同情を禁じ得ないのだが、そんな彼女に「転機」が訪れたのは、エスカレーターの専門サイト運営という <特殊な趣味>が高じ、それだけのために「誰も観光しない場所」へ出掛けるようになったからだった。
<この場所の楽しみ方は、自分が一番よく知っている>のだから・・・「こうしたほうがいい」とか、 「こうしなければ」なんて達人からのアドバイスなんか気にしないで、少しだけ力を抜いて、「自分なりの ひとり旅」を楽しむための基本ルール。
・「普段していることをすること」
・「損得を気にしすぎないこと」
・「自分の力を過信しないこと」
これは、今まで「こうしなくちゃ!」と思い込んでいたために、楽しめなかったり、落ち込んでしまいがち だった、ひとり旅<初心者>のアナタに、実際やってみたら(あるいはやらなかったのに)そうでもなかった よ、とこっそり教えてくれる、<心配性トラベラー>からの51ヶ条の体験済報告集なのである。
とはいうものの、彼女がここまでの境地に至るまでに払わされた代償は、決して並大抵のものではなかった ようで、「英語がしゃべれるようになろう」と、無茶な思い付きで臨んだニューヨークへの「超短期ホーム スティ」(1週間!)で、「英語で人生が変わる」なんてことは、日本語でさえ話しベタの自分には絶対に ない、ということを確信したり、なんとなく人間関係に疲れ、「誕生日を日本で迎えない」ために出かけた、 真冬のソウルへの逃避旅行では、ソウルでならできると挑んだ「ひとり焼肉」を高級焼肉店で拒絶され、 結局、日本からのSNSメッセージに折れた心を癒されたり、
なにしろ、彼女が初めてのひとり旅で、勢いで選んだ行く先が「キューバ」で、観光客を狙う詐欺師に追い かけられまくる以外、何もすることがなかった、とか。まったく、うら若き乙女にひとりでそんな場所に 出掛けることを許すなんて、「親の顔が見てみたい」わけなのだが、きっと、何があろうとも、どんな時でも、 心からのエールを愛娘に送っているに違いないと、暇人は信じているのである。
※ご参考までに
「きゅうば」をしのぐ
旅エッセイのはずなのに妙に内向きで、情けなくて、失敗だらけの内容になっています。ちゃっかり マニアックで特殊な趣味の内容も少し混ぜ込んでいるので、「世の中には変わった人もいるものだな」と 思いながら、楽しんで読んでいただければ、いろいろと失敗した甲斐があります。
※よろしければ
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2018/4/15
「夏の庭 The Friends」 湯本香樹実 新潮文庫
「木山、おまえ、死んだ人、見たことないんだよな」「あ・・・ああ」
「オレもなんだ」「だからどうしたんだよ」
「つまりさ」河辺は目を輝かせている。こわい。「ひとり暮らしの老人が、ある日突然死んでしまったら、 どうなると思う」
「どうなるって・・・ひとりぼっちで死んでしまったら・・・」
<おじいさんがひとりで死ぬ。そこを発見するんだよ>
小学6年の同級生、木山、河辺、山下の3人が、まるで世捨て人のように暮らしている、そのおじいさんを <観察>しようと思ったのは、田舎のおばあちゃんが死んでお葬式に出掛けてきた山下から、ほんものの <死んだ人>を見た話を聞かされたことがきっかけだった。
「この頃、なんか死んだ人のこととか、自分がいつかは死ぬとか、死んだらどうなるんだろうとか、そんな ことばっかり考えてしまうんだ。でもさ、頭では人間はいつか死ぬってわかっているつもりでも、全然信じ られないんだよな」
<知りたいことがあるのなら、知る努力をするべきだ。>
帰宅が遅い父のせいで、飲酒に逃げる母に見つめられながら、一人ぼっちの夕食を強いられている、語り手は やせっぽちの木山。幼いころに別の女性に走った父のことを、死んだことにして理想化し、友だちには隠し 続けているらしい、神経質なメガネの河辺。土曜は店の手伝いをしなければ怒られる、にもかかわらず父親の ようにはなるなと母親からは愚痴られている、おっとり屋でデブの山下は魚屋の息子だった。
それぞれがそれぞれに、子供では太刀打ちできない複雑な家庭の事情を抱えてモヤモヤしている、そんな彼ら 3人の少年たちにとって、<死>というものに対するおぼろげな好奇心から始まったこの<老人観察>の冒険 は、小学校最後の夏休みに取り組む<卒業課題>のようなものだったのかもしれない。
最初は見つかったら逃げ出してしまうようなビクビクが、溜まっていたゴミ出しなどをきっかけに、会話が 流れるようになり、夏だというのにコタツに入って、テレビをつけっ放している、そんなおじいさんの <止まっていた時間>も、再びゆっくりと動き出すことになる。
平成5年「日本児童文学者協会新人賞」ほか、受賞作品。
洗濯の仕方、包丁の砥ぎ方、ペンキの塗り方、庭の作り方・・・まるごとのスイカを食べて、庭にホースで 水をまいて、花火を打ち上げて・・・花火職人だったおじいさんの昔語りと、これまで誰にも話さなかった らしい戦争体験を聞いて・・・
おじいさんと少年たちとの間に、深い心の絆を育むことになった、とても<大切な時間>はまたたくうちに 流れていき、唐突に・・・止まった。
彼らはその時<死>を見たのだろうか?いや、彼らが見たのは<生きること>の意味だったに違いない。 この<夏の庭>で、少年たちは<大人>になったのだ。
山下は、ふたりに見つめられてちょっとどぎまぎしたような顔をしたけれど、すぐに最高のスマイルを 見せて言った。
「オレ、もう夜中にトイレにひとりで行けるんだ。こわくないんだ」
ぼくと河辺は一瞬、拍子抜けしたけれど、その時、山下が叫んだ。
「だってオレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それってすごい心強くないか!」
2018/4/14
「ユニクロ潜入一年」 横田増生 文藝春秋
「『限りなくホワイトに近いグレー企業』ではないでしょうか。」と答えたのち、「悪口を言って いるのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとして うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と語っているのを 見つけた。
<この言葉は、私への招待状なのか>
2011年に上梓した前著『ユニクロ帝国の光と影』において、ユニクロの違法な長時間労働を告発したこと が、カリスマ経営者・柳井正の逆鱗に触れ、名誉を棄損するものだとして、出版差し止めと2億2千万円の 損害賠償を求める訴訟を起こされながら、結局、2014年12月に、最高裁への上告が棄却され、被告側 (出版元の文藝春秋)の勝訴となった。そんな著者にとって、まるで自分に向けて発されたかのような柳井の この言葉こそが、実際にユニクロで働いて取材してみようと思うきっかけになった。
「働いてみろ?ん、なこと言うならやってやろうじゃないか!」と、いかにも<売り言葉>に<買い言葉>で、 安易に受けて立ってしまった、かのように思われるかもしれないが、身元がばれないように、いったん離婚 した上で再婚し、今度は妻の姓を名乗って面接に臨むなど、その覚悟のほどは並大抵ではない、 <本気>なのである。
「今月から12月と思って行動しなければいけない。7月・8月からスタッフ採用しているが、まだ完了でき ていない。店長・SVに伝えて、お客様の中で販売員になってもらえそうな人を即勧誘して頂きたい。」 (<部長会議ニュース>にあった柳井社長の叱咤激励)
ユニクロが来店した顧客を店員として勧誘する、などという<奇策>を取らねばならないほど人手不足に陥っ ていたのは、他の店に比べて見劣りする時給の安さに原因があった。しかも、他の店よりも明らかに勤務条件 は過酷なのである。にもかかわらず、「これまでのシフト通りに人件費を使っていては、赤字になって会社が つぶれてしまうのです」と、売上が落ち込む時期には、いとも簡単に勤務時間の縮小を要求してくる。
「スタッフは心のなかではアルバイトの皆さんに感謝しているんです。だからこそ、売上を取って、黒字に しなければいけないんです。そうすれば、みんなも満足感や達成感を味わえる。結果次第で、努力が報われた という喜びや、自分が成長したという達成感を手にできるのですから」
と「世界で仕事が一番しんどい店」を自認するビックロの総店長が語ったように、(聞かされている アルバイトにしてみれば戯言にすぎないだろうが)これこそが柳井から幹部の心の奥底に刷り込まれた、 いささか時代錯誤ともいうべき、ユニクロの哲学のようなのだった。
著者自身が体験することになったユニクロの労働現場の疲弊と、体当たりの取材によって初めて耳にすること ができた労働者たちの悲痛な叫び声。
柳井正という人物に貼られた<希代の経営者>というレッテルに、どうしようもなくついて廻るある種の <胡散臭さ>があるのだとすれば、これはそんな柳井本人に送り返された、むしろ愛情あふれる <逆・招待状>のようなものだと言うべきなのだろう。
もし柳井社長がそうした声に耳を傾け、それらを改善することが、ユニクロの新たなビジネスチャンスに つながると考えるなら、すぐにでも、身を隠しユニクロの店舗や海外の下請け工場などでアルバイトとして 働くことをお勧めする。それこそが、ユニクロにとっての“働き方改革”の第一歩となるかもしれない。
2018/4/6
「がん消滅の罠」―完全寛解の謎― 岩木一麻 宝島社文庫
「夏目のところからまた例のパターンの早期事故案件?」
(保険加入から8ヶ月で余命半年の末期がんと診断されたという案件が)診察患者から立て続けに出て いることを夏目と羽島に相談してから半年が経過していた。
結局、支払い時の調査でも不審な点は見つからず、リビングニーズ特約による死亡保険金3千万円が、がん 保険の5百万円と共に支払われた。
<あり得ないことが起きたのはその後だ。>
日本がんセンターで呼吸器内科医を勤める夏目は、自分が余命半年と診断した患者4人の癌が、保険金請求後 に綺麗さっぱりと消えてしまうという事態に困惑していた。
「殺人事件ならぬ活人事件というわけだね」と、疫学研究者で探偵気取りの同僚・羽島と力を合わせながら、 不審を抱く保険会社の調査課長だった友人・森川からの協力も得て、<誰>が、<なぜ>、<どのように>して、 <(殺したではなく)生かした>のか、という不可解な謎の真相に迫る。これはまさに前代未聞の、しかも 本格医療ミステリーの歴史に残るであろうという、「このミス」審査員お墨付きの大賞受賞作なのである。
「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」をやるために、 という謎めいた言葉を残して研究所を辞めてしまった、恩師の西條先生のその後の消息を突然知ることに なったのは、夏目の下に癌患者を送り込んできた、新興で無名の病院<湾岸医療センター>のホームページに、 驚いたことに理事長として、西條の名前が記されているのを見つけたからだったのだが、この病院には、 大物政治家、大企業経営者、高級官僚、裏社会の黒幕など、各界の有力者がお忍びで通い、独自の治療を 受けているらしい、という黒い噂があった。
一方で、末期がんを宣告された低所得の患者が、高額の生前給付金によって窮地を脱したとたん、病巣が消滅 し日常に復帰したかと思えば、初期のがんが早期発見された患者のうち、年収の高い層ほどがんの再発率が 高いという、奇妙なデータも発見される。
この「画期的な治療法」の謎の解明に取り組むうち、夏目たちが辿りつくことになった驚愕の事実。それは、 先生のあの謎めいた言葉の裏に秘められていた、家族を愛するが故の哀しき嘘が紡ぎあげた悲劇だった。
(以下、ネタバレにつき、文字を白くしておきます。)
「
娘があなたを守るためについた嘘のせいで、私はずっと娘が非常に不幸な最期を 遂げたのだと思っていました。こんな悲劇が起こる歪んだ世界を正し、娘の仇を探しだし、それがどんな男で あっても確実に罰を与えられるだけの力を手にしようと決意しました。そのためには医師の本質を捨て、医学 を悪用することも厭わなかった。夏目くんはずっと気になっていたでしょうが、私が目指したのはそういう ことです。
」
2018/4/5
「大人のための東京散歩案内」 三浦展 洋泉社カラー新書
神楽坂の街としての魅力は、もちろん花街としての色香ゆえだが、しかしそれだけではない。 牛込台地の東端に位置する神楽坂は、飯田橋から上っていく早稲田通りの坂だけでなく、その北も南も坂が 右に左に上り下りするという複雑な地形を持っており、人一人通るのがやっとのような細い路地が入り組んで いる。
<いったい私たちが住みたい街とはどういう街なのか>
商店街、銭湯、居酒屋、喫茶店、古本屋、同潤会、若者の風俗・文化・・・そんな雑多な構成要素によって 醸し出される、東京という街の生活の臭いを、自分の足で実際に歩いてみることで味わってみよう。 特に昭和以降に作られたが故に、逆に私たちが気づかぬうちに、どんどん平気で消え去っていってしまう、 東京の風情が無くなってしまう前に。
というわけで、これは暇人が参加している読書会のメンバーで、「本郷・谷中・根津」界隈を散策した際の 参考資料として読んだ本なのだが、2001年に取り上げられた「懐かしい風景」が、本当に平気で壊されて、 「今はもうない!}というシーンが続出したことに、いささか唖然としたわけなのである。
自分が住んでいる町を、私たちは案外知らないのではないか、という思いもあって数年前から「金沢探訪」と いう企画を実践してきた身としては、
「味噌づくりの町」の「町づくりの味噌」
(大野)
誰も知らない「裏東山」探訪
「古地図」で巡る「金沢の顔」
(金沢駅周辺)
新竪町「若者文化の逆襲」
忘れしゃんすな山中を
(山中温泉)
「商人」の気位が息づく町並み
(尾張町界隈)
「静音(しずね)の小径」を歩く
(寺町寺院群から野町界隈)
朝だ!夜明けだ!魚市だ!
(中央市場・セリ見学)
坂や!酒屋!酒もってこんかい!
(小立野にて美し坂と旨し酒を嗜む)
「父と子と聖霊の御名において」
(土塀と用水の街―長町・長土塀)
「善の研究」の研究
(西田幾多郎記念哲学館)
電車で訪ねる城下町「大聖寺」
「町人の歓楽街・菊川」と「練兵場の町・十一屋」
「城址だけではないがぜよ・・・」
(金沢城・石垣巡り)
「かなざわごのみ」を知っていますか?
(旧石川県庁・しいのき迎賓館)
こぉこはどぉこの細道じゃ
(兼六園・金澤神社)
「ふるさと」は近きにありても、遠いもの?
(千日町・白菊町界隈)
などなど、発掘できる「魅力」が、町のそこここに埋蔵されている、「底力」のある町に住んでいることの 幸せを、つくづく噛みしめながら、これからも探訪を続けたいと思うのである。
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