徒然読書日記201803
サーチ:
すべての商品
和書
洋書
エレクトロニクス
ホーム&キッチン
音楽
DVD
ビデオ
ソフトウェア
TVゲーム
キーワード:
ご紹介した本の詳細を知りたい方は
題名をコピー、ペーストして
を押してください。
2018/3/31
「サピエンス全史」―文明の構造と人類の幸福― YNハラリ 河出書房新社
約7万年前に歴史を始動させた認知革命、約1万2000年前に歴史の流れを加速させた農業革命、 そしてわずか500年前に始まった科学革命だ。3つ目の科学革命は、歴史に終止符を打ち、何かまったく 異なる展開を引き起こす可能性が十分ある。
<歴史の道筋は、3つの重要な革命が決めた。>
大きな脳、道具の使用、優れた学習能力、複雑な社会構造という恩恵に浴しながら、200万年もの間 「取るに足らない生き物」でしかなかった私たちサピエンスが、7万年前に突如として食物連鎖の首座に 君臨することになったのは、サピエンスの認知的能力に偶然起こった革命の産物だったという。 単なる事実を伝える言語ではなく、架空の事物(虚構)について語る能力を得たことから、伝説や神話 そして宗教が生まれた。この「認知革命」によって、サピエンスは無数の赤の他人と著しく柔軟な形で協力 できるようになり、世界を支配したのである。
1万年前に、それまでは植物を採集し、動物を狩って食料としてきたサピエンスが、いくつかの動植物種の 生命を操作することに、ほぼすべての時間と労力を傾け始めたのは、その方が、より多くの果物や穀物、 そして肉が手に入ると考えてのことだっただろう。人間の暮らし方を一変させた、「農業革命」である。 しかし、食糧の増加は人口爆発と飽食のエリート層誕生につながり、農耕民は結果として、狩猟採集民より も、労多くして見返りの少ない暮らしを強いられることになった。
<「農業革命」は、史上最大の詐欺だったのだ。>
近代以前の知識の伝統である宗教は、この世界について知るのが重要である事柄は、すでに全部知られて いると主張してきた。わずか500年前、「人類は自らにとって最も重要な疑問の数々の答えを知らない」 という重大な発見から、爆発的な文明の発展に結び付けたのが「科学革命」だった。
自らの無知を認めた上で、新しい知識の獲得を目指す、近代科学の姿勢は、物事が改善しうるという「進歩」 という考え方を生んだ。「進歩」という考え方によって、将来への信頼を寄せることができるようになった 人類は、やがて「信用」という概念(これも虚構)への道を開ことになる。
この考え方は、たちまち経済にも取り入れられる。「将来を信頼する」から「信用が盛んに発生する」ので、 「経済成長は速い」ため、ますます「将来を信頼する」。(以下同様)
「未来は現在より豊かになる」という、資本主義マジックの誕生である。この、いわば巨大な「共同幻想」 (これももちろん虚構)のおかげで、人類は現在、かつてはおとぎ話の中にしかありえなかったほどの 豊かさを享受している。
<だが、私たちは以前より幸せになっただろうか?>
私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが 直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」 かもしれない。この疑問に思わず頭を抱えない人は、おそらくまだ、それについて十分考えていない のだろう。
2018/3/12
「天文の世界史」 廣瀬匠 インターナショナル新書
天文学という学問の対象は多岐にわたっていて、その全容を把握することは当の天文学者にとって も困難です。また専門用語や数字がやたらと出てくるため敬遠してしまうという人も多いかもしれません。 おまけに、せっかく覚えた知識もあっという間に塗り替えられていきます。
<私たち一人一人は本当に宇宙のことを分かっていると言えるのでしょうか?>
地上に居ながらにして100億光年以上離れた銀河を観測できるばかりか、太陽系の天体ならば、直接 探査機を送り込めるようにまでなった現代に、何百年も前の天文学について知ることに、一体どんな意味が あるのかといえば、それは天文の「問い」を知ることだと、この天文学史家は言う。
どんな学問であれ、本当にその分野を理解しようとするのなら、まずはその道の研究者たちが、何に答え ようとして来たのか、その「問い」を理解しなければならない。世界中で天文は常に政治・文化・宗教と 深く関わってきたのだから、天文という視点を通せば、様々な時代や地域の人々についての理解を深める こともできるというのである。
太陽の動きから「一日」と「一年」という単位を決める「太陽暦」と、月の満ち欠けで「一ヶ月」を決める 「太陰暦」、そのズレから生ずる「閏月」。明治5年に、日本が従来の太陰太陽暦を廃止して太陽暦を採用 したのは、財政難に苦しむ明治政府が閏月をなくして公務員の月給を合法的にカットするためだった。 という、『太陽、月、地球』の章。
「@太陽の周りを回り、A球形になるほど質量が大きく、Bなおかつ自分の軌道の周囲から他の天体を きれいになくしてしまった天体」という定義が2006年に採択されて、ようやく8つに定まった惑星の個数 と、曜日の順番との神話的関係。(興味のある方は、
こちら
もお読み下さい。)という、『惑星』の章。
星々の間を移動していくように見えたためそう名付けられた惑星に対し、お互いの位置関係を変えない恒星 は、夜空に星座を描くことになるが、1928年に国際天文学連合によって正式に定義された88個の星座 は、実はその境界が定められただけで、星の数や結び方(つまり星座の形)は自由なのだ。という、 『星座と恒星』の章。
『流星、彗星、そして超新星』の章。
『天の川、星雲星団、銀河』の章。
これは、公認の星空案内人=「星のソムリエ」が、時空を超えた宇宙観までを壮大なスケールで料理して みせた、魅惑の天文フル・コースへのご招待なのである。
天体の種類で章を区切った背景には、どの章からでも読める手軽さと分かりやすさを重視したからという 理由だけではなく、本書を読んでから空を見上げたときに、その内容を思い出していただきやすいだろう という思惑もあります。何となく眺める星空も美しいですが、天文の知識があればさらに楽しめますし、 そこに歴史が加わればいっそう味わい深くなるに違いありません。
2018/3/8
「銀河鉄道の父」 門井慶喜 講談社
「花巻が、なすて宝の山か知ってるが」「え?」
「え?ではない。石の種類が豊富な理由だ。お前には興味ある話だろう」
われながら、どうしても叱り口調になってしまう。賢治はよほど意外だったのか、うさぎが巣穴から外を うかがうような目つきで、
「存じません」「教えてやるべが」
傾きかけた呉服屋の大店という家業を、古着屋から始めて東北有数の質屋へと一代で立て直してみせた 父・喜助の後を継ぎ、いまでは副業程度の扱いになっていた古着の商売を、いつしか宮沢家の重要な収益事業 に育て上げ、<喜助さんにも引けを取らぬ、利才ある男だ>と評判されるようになっていた政次郎が、古着を 仕入れに向かう関西出張の帰りに、わざわざ東京へ寄り、大きな本屋でいろいろと鉱物学の入門書を買い こんで汽車の中で読んだりしたのは、小学4年生になった息子の賢治が、珍しい石を集めることに異常に 執心し、近所の人々から<石っこ賢さん>と呼ばれるほど、地質学への傾倒を示していたからだった。
「わかったか、賢治」
話しながら、(わかった)と痛感したのは政次郎のほうだった。
地質学のことではない。自分はつまり、
(うらやましいのだ)
花巻一の秀才という折り紙をつけられ、自身も勉強がとても好きだったから、県下の最高学府である岩手中学 への進学を頼み込んだにもかかわらず、「質屋には、学問は必要ねぇ」と、当時の商家の常識として、 父・喜助からその望みを一蹴され、家業を継いだ政次郎にとって、やはり頭のいい息子の賢治が過ごして いる、そんな一銭にもならない純粋な世界にのめりこむ子供の毎日の、(助けになりたい)という父親として の想いを抑え込むことはできなかった。もちろん、家業を継がせたいという切実な願いも・・・
われながら矛盾しているが、このころにはもう政次郎も納得している。父親であるというのは、要するに、 左右に割れつつある大地にそれぞれ足を突き刺して立つことにほかならないのだ。いずれ股が裂けると知り ながら、それでもなお子供への感情の矛盾をありのまま耐える。ひょっとしたら質屋などという商売よりも はるかに業ふかい、利己的でしかも利他的な仕事、それが父親なのかもしれなかった。
本年度「直木賞」受賞作品。
誰に認められることがなくても、自分だけは息子の才能を信じ、どこまでも支え続けようとした凡庸な父と、 商才に長けた偉大な父を乗り越えることのできない焦燥から、頑なに脇道を辿り続けた愚直な息子と、
これは決して特別な父と子の物語ではない。
「遊んでた?」
「おお、んだ。あるいはいっそ、いたずら書きしてた。だってそうでねぇが。雨にも負けず、風にも負けず なんて見るからに修身じみた文ではじまって、誰も文句のつけようがない立派なおこないばかり書きつらね たと思ったら、最後のところで『私はなりたい』。なーんだ、現実にそういう人がいるって話じゃなかった のか。ただの夢じゃないか。こっちは拍子ぬけってわけだなハ」
先頭へ
前ページに戻る