徒然読書日記201105
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2011/5/20
「現代建築のパースペクティブ」―日本のポスト・ポストモダンを見て歩く― 五十嵐太郎 光文社新書
にぎやかで派手なデザインからシンプルでミニマルなデザインへ。現代建築は、透明感や無重力がキーワードになっている。 だが、これが可能になるのは構造技術の工夫があるからで、テクノロジーという縁の下の力持ちが重要な役割を果たしている。 全面的にガラスを使うことも好まれている。新しい技術を駆使して、モダニズム以上にモダニズム的なイメージを追及しているわけだ。
過去の様式や装飾を切り捨てて、とにかくシンプルであることに向かった「モダニズム」に反発し、 歴史的なデザインを引用したり、過剰な装飾を再導入したり、地域性を強調したのが「ポスト・モダン」であったとすれば、 シンプルでミニマルなデザインを志向する「ポスト・ポストモダン」は、一見「モダニズム」へ回帰しようとしているかのようであるが、 単純なかたちの要素を反復する(妹島和世とか)ことで多様な空間を生み出したり、 シンプルなルールを課す(伊東豊雄とか)ことで、複雑な形態を生成したりするという意味で、
「もはや単純さと複雑さは対立するものではない」
つまり「ポスト・ポストモダン」とは、モダニズムとポストモダンをたたみこんだ、「オルタナティブ・モダン」なのだというのである。
今や気鋭の建築評論家が見て歩いたのは、ポスト・ポストモダン建築家たちのパビリオンと化した感のある表参道や銀座のブランド建築群や、 若手建築家が実作を手がける機会に恵まれ、非常に洗練された作品を生み出すことの多い小住宅の数々 (実は自邸だったということが多いのだが・・・)なのだが、
どんなに著者の明晰な分析力で以て、これでもかとばかりに解説されてみたところで、 『渡辺篤史の建もの探訪』に慣らされてしまった、元建築家(実は私は著者の高校・大学の先輩にあたることになる)の「ふにゃけた頭」では、 新書版の映りの悪い小さな「写真だけ」では、その作品の空間の雰囲気や見せ場を、まるで感じとることができないのだった。
というわけで、
「東京で一番大きい建築物」=「首都高速道路」の記述が一番面白かったのは、 何も、私の娘が「高架橋脚ファンクラブ」の会長だから、というだけではないように思うのである。
環状線を一周すると、六本木のあたりが最も高く、もともと川だった銀座あたりが最も低い。およそ45mの高低差になる。 これは都市のジェットコースターではないだろうか。江戸橋ジャンクションから南に向かうあたりは、一気に下降する。 つまり、東京のパノラマが展開するジェットコースターとして首都高速を楽しむことができる。
2011/5/19
「南極1号伝説」─特殊用途愛玩人形の戦後史― 高月靖 バジリコ
「わたしは、越冬を実行するまえに、この問題をどう解決したらよいか、いろいろ考えた。大して重大に考えなくても、 けっこうコントロールがつくように思えるし、また、越冬隊員には若くて元気な人もいるのだから、 やはり処置をこうじておかなければならないようにも思う。出発前に、オーストラリアを訪れたときも、わたしは、 ざっくばらんにむこうの人たちの経験を聞いてみた」(『南極越冬記』西堀栄三郎)
『南極1号』とは・・・
1956年、永い越冬生活における性的欲求不満を解消するために、文部省(当時)が国費をかけてその製作を依頼し、 第1次南極越冬隊の観測隊員たちに持っていかせたのだと、まことしやかに噂された、
皆さんご存じ、これはあの「ダッチワイフ」の通り名なのである。
しかしながら、隊員の帰国後に書かれた週刊誌の記事などをみると、「南極妻」は結局「処女」のまま帰って来たらしく、それはどうやら、
「あの寒いイグルー(風紀上の問題から、彼女は基地とは別棟の簡易住居に住んでいた)の中で頑張ってみるほど、 昂じている人はいなかったということだ」
という越冬隊員たちの表向きの証言を信じるよりも、
「(マネキンを改造し、)ゴムとプラスチック製の局部、腰とお尻をお湯で温めるための金属缶などが取り付けられた」
という見た目の問題の方が、はるかに隊員たちの意欲を削いだということなのではなかろうか。 (改造を請け負った業者によれば、行為の邪魔になるからと、足を太ももから切断したのだそうだ。)
あれから、はるか半世紀が過ぎて・・・
軽量化、強度の確保もそうだが、もう1つバストのやわらかさも重要なポイントだ。全身を均質なシリコンで作ろうとすると、 どうしてもバストは固くならざるを得ない。だが胸の感触はやはりユーザが特に重視する部分であり、これまでいろんな製品が 「おっぱいが固い」などと指摘されてきた。そこで多くのメーカーは胸の内側にだけよりやわらかい構造物を仕込むと同時に、 その部分だけ表面のシリコンを薄くすることで対処している。こうすることで表面を均質なシリコンで覆っていても、 バストだけは異なった感触になる仕組みだ。
新しい化学材料の発見と、たゆまぬ努力による製作技術の進歩は、ついに「ここまで」のことを実現して見せてくれた。
日本の「ラブドール」(近頃ではダッチワイフのことをこう呼ぶのだ)のトップブランド「オリエント工業」が、 2年の開発期間を費やして2001年に誕生させたのは、
シリコン製のプチジュエル「アリス」。
(くれぐれも、興味のある方だけ
こちら
をご覧ください)
越冬隊員の皆さんたちだって、きっとこんな彼女なら、
『南極2号』
として、南極まで連れていくことも厭わなかったのではなかろうか。
2011/5/11
「会計天国」―今度こそ最後まで読める、会社で使える会計ノウハウ― 竹内謙礼 青木寿幸 PHP研究所
「えー、ルールを説明しますね。今から人生を踏み外しそうな五人のところに行きます。この五人はそのままほっといたら、 必ず『不幸』になります。そうなる前に、北条さんが適切なアドバイスをして、五人すべての人生を『幸せ』に導いて下さい」
首都高速で瀕死の事故にあった経営コンサルタントの北条は、手術室で幽体離脱中、目の前に突然あらわれた自称『天使』から、 『現世への復活チャンス券』なるものを与えられる。
課題をクリアすれば現世へ復活することができるが、失敗すれば天国行きは取り消され、地獄へ行くことになるというのだった。
「俺は娘の結婚式に出席しなくてはいけない・・・その不幸な五人に会わせてくれ」
10年前に妻に先立たれて、男手一人で育ててきた娘の結婚式を1カ月後に控えた北条の、経営に行き詰まった「不幸」な五人を、 『会計に関するコンサルティング』によって1時間以内に「幸せ」にする、というまさに「死に物狂い」の闘いが始まったのだが、
「なぜ、儲かっているはずの会社が倒産するのか」
(『貸借対照表』を読むための『比べる』極意)
「価格競争に陥った会社が必ずやるべきこと」
(『損益計算書』を黒字にするための『固定費』の考え方)
「粉飾決算という泥沼から抜け出すには」
(『キャッシュフロー』分析による『企業再生』への道)
「同期との競争に勝って出世する方法」
(『貢献利益』を上げるには部署の『決算書』を作る)
「戦略が変われば組織も当然変わる」
(『成長力』と『粗利益』でセグメントごとの戦略を練る)
といった具合に、
『財務会計』の基本の基本から、結構奥の深い『管理会計』の触りまでを、物語仕立ての具体的な事例の中で、 「決算書」を読んだこともないような「会計」ど素人の5人を相手に、噛んで含めるかのように、 わかりやすくアドバイスしてくれるわけなのである。
で・・・、彼らは「幸せ」になったのだろうか?
「俺は神様じゃない。たった1時間の助言で、一人の人間の人生を『幸せ』になんてできないよ。 彼らは、どうやったら良い方向に進めるのかという方法を知ったとき、自分でそれを実行しようとする意志を持った。 そのあとは、彼らが一生懸命、努力したからこそ、本当に将来の結果を変えることができたんだ」
2011/5/9
「悪の遺伝子」―ヒトはいつ天使から悪魔に変わるのか― Bオークレイ博士 イースト・プレス
反社会的な人物と正常人の脳の活動のちがいを見つけるのは、いわば魔法のカメラでスナップ写真を撮るような作業とも言える。 データ処理の複雑さは想像を絶するが、ある意味で簡単なのである。
「血・下水・地獄・レイプ」といった邪悪な単語で繰り返し刺激してみると、 反社会的な犯罪者の脳は、正常人とは明らかに異なる領域の活動が高まることがわかったというのである。
脳を輪切りにして見せる装置「機能的核磁気共鳴イメージング」(fMRI)の登場により、 暴力的な子供を抱えることになった親の「子育てでどんなまちがいをおかしたのだろう」という悩みには、
「よい家庭で育った子供たちについては、何一つまちがっていなかったということになるだろう。先天的な欠陥が原因なのだ」
という格好の言い訳が与えられたことになる。
「遺伝子が脳を生み、脳が行動を生み、そして行動が善悪を生むのだとしたら、悪の遺伝子は確かに存在しうる。」のだから・・・
不誠実で悪辣なスターリン。
野蛮で気まぐれで身勝手な毛沢東。
強欲そのもののファストウ(エンロンCFO)。
一見して、邪悪としか思えない人物がなぜ存在し、政治や宗教、学問の場、一般の職場やふつうの家庭まで、さまざまな社会構造の中で、 いかに「役割」を果たしうるのか、あるいはトップにまで昇りつめることすらありうるのか?
それは、彼ら「邪悪な成功者」たちには、他人に感情移入することなく、人を単なる物体として操ることができる「才能」が、 生まれつき備わっていたからだ、
というのが、
他人を操ろうとする欺瞞的な人間の本質を、神経科学の面から解き明かそうと、心理学や精神医学を長く学んできたバーバラ博士が ついに突き止めた、恐るべき「真実」なのだそうだが、
博士がこうした地道な研究を続けることになった発端ともいうべきものが、
わたしは姉のおかげですでに子供のころから、なんとも説明しがたいタチの悪さを秘めた人間について、よく考えることがあった。 他人とほんとうに近しい間柄になって、それだけに深い傷を与える人間である。
という、不誠実で自堕落なくせに、妙に男を惹きつける魅力にあふれていた美人の姉への、 癒えることのない「恨み」からきたものだったということの方が、私にとってははるかに驚くべき事実だった。
邪悪な「執念深さ」にも、遺伝子はあるのだろうか?
2011/5/5
「七夜(ななよ)物語」 川上弘美 朝日新聞
いちばんみんなを感心させたのは、仄田(ほのだ)くんだった。仄田くんは、地球物理学の学者になったのである。 みんなはびっくりするやらおかしがるやらだった――だって、昔から仄田くんはいかにも「地球物理学者」などという、 わけのわからないものになりそうだったし、そのまま変わらず成長していったというのが、またいかにも仄田くんらしいではないか―― けれど、さよはなんだか、仄田くんの顔を見ただけで、涙が出そうになってしまったのだ。
今は、こどもの物語を書いて暮らしている鳴海さよは、この前行ってきた小学校のクラス会のことを思い出し、不思議でならなかった。
「どうしてあたし、仄田くんのことがあんなになつかしかったんだろう」
588回もの永きにわたった朝日新聞の連載がついに終了。
「本の中の、喋るキツネやくまや空飛ぶじゅうたんのことは、友だちに言ってはいけない」
言ってしまったら、きっと友だちは自分のことを「ヘンな子」と思いはじめるから、と考えている本好きの小学4年生だったさよは、 毎週楽しみに通っている図書館の本棚の片隅に、ある日変わった本が置かれているのを発見する。
この物語が、いつの時代のものなのか、どこの言葉で語られたものなのか、誰も知りません。
けれどいつからか、この物語は人から人へと伝えられ、
語りつがれ、そしてしまいに、この本に書きとめられたのです。
それは、閉じてしまったら中身を覚えていることができなくなる、という不思議な本だった。
ひょんなことから、同じ本を読んでもらい、相談に乗ってもらうことになった仄田くんは、「小学生のふしぎシリーズ」全24巻を読破し、 その内容を熟知しているが、みんなと同じことをしようとしないせいか仲間外れになっているため、 実はさよでさえもが「仄田くんのようにはなりたくない」と思っているくらい「ヘンな子」だったはずなのだが・・・
夜の世界のねじれを修正してほしいと命じる、口うるさいネズミの「グリクレル」や、 昼の世界で疎外されている「モノ」たちを、夜の世界に引き寄せ命を吹き込む「ウバ」たちなどとの、 今は少しも覚えていない、あの夜の世界での「七夜」の冒険物語を、
ともに手に手を取り合って乗り越えてきた、その手の「ぬくもり」だけは、 「このまま消え去ってしまうのはイヤだ」と叫び最後まで抵抗して見せた、あの「ちびエンピツ」の思い出とともに、 確かに心の片隅に残されているようなのだった。
ときおり、さよは夢を見る。その夢の中には、幼い少年と少女が必ずあらわれる。少年と少女は、いつもくちぶえを吹いている。 まるで、誰かを助けようとするかのように。
こよなくなつかしいそのメロディーを、夢がさめてしまえば、さよはもう思い出すことができないけれど、その夢を見たあと、 さよは必ず、深い幸福感に包まれるのである。
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