徒然読書日記200610
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2006/10/27
「数学的にありえない」 Aファウアー 文藝春秋
「理解できた?」
「ああ。未来は観察されるまで形がないってわけだ。もしコインを投げれば、起こりうる未来がふたつ存在することになる。 ひとつは、コインの表が出る未来。もうひとつは、コインの裏が出る未来。ただし、観察されるまでは、どちらの未来も存在しない。」
「そうよ。素粒子が同時にあらゆる場所に存在できるのは、それが理由なの。位置が定まっていないからこそ、これから起こりうるすべての未来に対応できるのよ。」
ハイゼンベルクの「不確定性原理」から導き出される、摩訶不思議な(しかし、どうやらそれが真実であるらしい)わたしたちの世界の姿については、
『フィールド 響き合う生命・意識・宇宙』
(Lマクタガート インターシフト)
をぜひともお読みいただくとして、こちらはそれのサスペンス版。
複雑な類推や、入り組んだ確率の計算は、主人公の天才ケインが瞬くうちにこなしてくれるので、 子供の頃から数学は苦手という方も、題名に怖気づくことなく、安心してお楽しみいただけること請け合いの傑作です。
「なるほどな。ラプラスの魔が過去に起きたことをすべて知っているのは、過去はどんなときでも単一で、 枝分かれしているすべての枝はまえに向かって伸びているからだ。でも、未来は単一のものではないから、ラプラスの魔にも正確な未来は知りえない。 かわりに、起こりうるすべての未来に起きるすべてを知っているというわけだ。」
「そうよ。そもそも未来は確率論的なものなの。あなたは・・・(以下省略)」
2006/10/4
「町長選挙」 奥田英朗 文藝春秋
「社長、大変。見栄はって仕出し弁当全部食べちゃった」子供のように泣きごとを言う。
「馬鹿ねえ。ちゃんと栄養士さんに作ってもらったお弁当を持たせてるじゃない」
「だって、川村さんがおなじようなのを食べてたから、広げられなくなった」
「しょうがないねえ」光代がパソコンを閉じ、向き直った。「でもまあ、そういうのが女優だから。見栄がなくなったときは、主役を降りるときよ」
大日本新聞の代表で人気球団のオーナー「ナベマン」こと、田辺満雄
症状 不眠、暗闇が怖い
診断 死を恐れるパニック障害
治療 リタイアして生前葬
IT企業ライブファスト社長「アンポンマン」こと、安保貴明
症状 平仮名を忘れる
診断 脳内合理化による誤変換
治療 幼稚園でカルタ遊び、一人勝ちをやめる
中年女性憧れのカリスマ女優、白木カオル
症状 美容のことを考えると我を忘れる
診断 アンチエイジングという強迫観念
治療 逆立ち、期待に応えて頑張ることをやめる
「イン・ザ・プール」
「空中ブランコ」
(直木賞受賞作品)
に続く第3弾、ご存知、あの「トンでも精神科医」伊良部一郎がまたまたやってくれました、となるはずだったのですが・・・
今回は、ご覧の通り、診断を受ける患者の側の「存在感」が濃すぎて、その表情までがありありと瞼の裏に浮かんで来てしまうので、 伊良部の「お茶目」もかすみ気味。
それでも、伊良部の診断が、なぜか「当たっている」のは、いつもの通り。 どのお話も、破茶滅茶の展開を辿りながら、落ち着くべきところへ落ち着いていくというのは、やはりさすがの「名医」と言うべきなのでしょう。
ひょんなことから「内科医」として離島の「無医村」に派遣されることとなった表題作。
島を二分する血みどろの「町長選挙」に巻き込まれ、キャスティング・ボートを握ることとなってしまった伊良部が、 いつものように無責任に下した究極の解決策とは、なんと「○倒し」だったのですが・・・
2006/10/3
「ムンクを追え!」 Eドルニック 光文社
『叫び』は、およそ縦九十センチ、横七十センチほどもある、大きくてかさばる絵だ。 しかも立派な額縁に入り、表と裏の両側には防護ガラスがはまっている。それだけの重さの絵を抱えて、窓枠を乗り越え、滑りやすいハシゴをおりるのは無理だ。 侵入者は窓から思いきり身を乗り出して、絵をハシゴの上に載せた。「ちゃんと受け取れよ!」小声で言うと、 急な斜面で幼いわが子に橇遊びをさせる父親のように、ぱっと手を離して絵を滑らせた。
1994年2月12日午前6時29分、冬季オリンピック「リレハンメル大会」の開催初日を迎えようとしていた、 ノルウェー、オスロ市の国立美術館でその事件は発生した。
犯行後の現場には、三人の男たちが腹を抱えて笑い転げている『傑作な話』という作品の絵葉書が残されていた。
裏を返すと、そこには犯人からのメッセージ。
「手薄な警備に感謝する」
侵入者が館内にいた時間は、たったの五十秒。かくして二人組の窃盗犯は、わずか一分たらずのあいだに、 時価七千二百万ドル(約八十六億円)相当の絵画を手に入れたのだった。
『叫び』は、あきれるほどかんたんに盗まれてしまった。
「ノルウェー式の組織的犯行だ」ロンドン警視庁の捜査官は、のちに、感心したように言った。
「二人の男と一本のハシゴによる、組織的犯行だ」
ロンドン警視庁美術特捜班の「囮捜査官」チャーリー・ヒルによる、盗まれた名画の追跡と奪還が主筋のノンフィクション。 とはいえ、入念なインタビューと現地調査により構築されたストーリィーはフィクションを超えている。
いまや国際的な違法取引のなかでは、「麻薬」「武器」についで第三位に位置するという盗難美術品の闇取引の世界。
想像以上にお粗末な美術館の警備体制。
有名な名画が裏世界で流通に乗る不思議。
瞬時に真贋を見分ける秘訣。
「囮」捜査のテクニック。
いまや「ジャンボジェット機1機分」に匹敵するとさえいわれる莫大な価値の作品に対する、信じられないほど手荒な扱い。
ゴヤの『ドーニャ・アントニア・サラーテの肖像』は「安物のポスター」のように丸められ、 フェルメールの『手紙を書く女と召使い』は「ビニールのゴミ袋」の中に入って、発見されたのだった。
この本の「あとがき」で触れられている、 2004年8月のムンク美術館『叫び』盗難事件(本書の『叫び』とは別の作品) が、2006年8月31日、無事に解決したというニュースを目にした。
「オスロ市はこの十年間、防犯について何も学んでこなかったのだろうか?」
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