徒然読書日記200608
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2006/8/20
「海国記」 服部真澄 新潮社
文物の大動脈、瀬戸内海を制する者は、全てを領した! 時の潮目を読み切ってのし上がった平家三代。 端役の武士から、彼らはいかにして頂点に駈け上がり、貿易立国の道を切り拓いたのか――。 海道を熟知する楫師(かじとり)と祇園女御の秘密、雄々しき者の遥かな志と瓦解の悲劇。物流を軸に平安の“開国”を描く、新・歴史経済小説の金字塔。
瀬戸内の海を我が物としていた「渡しのもの」たち。
平正盛(清盛の祖父)との、奇しき因縁による出会いからきっかけを得て、そこからのし上がり、南宋と日本を繋ぐ海上の道を、自らの手の内に入れた男「水龍」。
水龍の養い子という「素性確かならぬ」身の上から、南海の海に消えた「水龍」への想いを残したまま、白河法皇の寵姫にまで上り詰める「祇園女御」。
正盛の子忠盛と、二の君(祇園女御と水龍の子)を介して、「渡しのもの」の血は清盛へと受け継がれていく。
「龍の契り」(祥伝社)
で鮮烈なデビューを飾った、国際謀略小説の名手「服部真澄」の手にかかれば、「平家物語」はこんな味付けになってしまうのである。
ところで、上・下2巻のこの本。
平家3代と朝家との、権謀術数渦巻く駆け引きと、西国支配を目指しての「血沸き肉踊る」物語が展開される上巻に対して、
下巻は、没落した平家の縁戚「公経」による「西園寺」家勃興のお話に引き継がれていくのであるが、
陰の主役「丹後の局」のイメージが「夏木マリ」からどうしても脱け出せず、そうなると「平幹二郎」や「渡哲也」もちらついたりして、 今ひとつストーリーに没頭できなかった。さすがに「滝沢大根」や「石原たらこ唇」までは出て来ないので、ご安心下さい。
2006/8/18
「光の指で触れよ」 池澤夏樹 読売新聞
「家族って閉じたものではないと思うの」とアユミが言った。 「コミュニティーで暮らしてみて、人はいろんな絆でつながっているということをわたしは知った」・・・
「希望はあるんだ」と林太郎は言う。「世の中ひどい話ばかりだけど、でも正しい嘘のない生きかたを目指している人はちゃんといる。だから希望はあるんだ」
電気会社に勤め、風力発電のプロジェクトを指揮する立場のエンジニアである林太郎は、彼を密かに慕う部下の美緒と、 現地調査に赴いた先の嵐の中で関係を持ち、恋に落ちる。
妻のアユミは娘のキノコ(可南子)を連れて、オランダの友人宅へ逃避し、その後、フランスのコミュニティー(共同体)である「エコドルプ」に腰を落ち着け、 ボランティアで有機農業の手伝いを始める。
新潟の全寮制の学校にいる息子の森介も含め、バラバラになってしまった家族が、それぞれに様々な体験と交流を深めることで、 環境問題やエネルギー問題という地球規模の大きな問題に立ち向かい、まずは身のまわりの問題から始めてみようと決意するに至る。
「有機農業」にその糸口を見出した林太郎は、これから何十年かの畑の生活を一緒に過ごしたいと考えた相手は、アユミしかいなかった。
『すばらしい新世界』
見知らぬ人同士でさえが力を併せて生きていけるのなら、壊れてしまった「家族」にだって、きっと力を併せて生きていけるに違いない。
この頃の、様々な「家族」にまつわる痛ましい「事件」に、貶められてしまった「家族の神話」。
これは、ささやかな「希望」に満ちた「家族再生」の物語である。
2006/8/16
「中村屋のボース」 中島岳志 白水社
今、日本にとって二つの道がある。一つは西洋主義に従って、東洋の英国となり、人類の自由を奪ひ、而して圧迫し、自己の利益を計ることである。 他の一つの道は、日本が東洋主義、日本精神に基いて他を幸福にすべく同胞民族を開放し、世界に於て偉大な日本になること之である。 前者を選ぶ時は、日本は、亜細亜全体から呪はれ、後者になる時は、全世界から尊敬を受けるに至る。 故に前者の存在は限定されたものに過ぎず、後者の存在は永遠的なものである。
創業当時はパン屋であった新宿の老舗「中村屋」は、なぜ、日本で初めて本格的なインドカレーを売り出すことになったのか?
そこには「ボースとグプターの神隠し」という忘れることのできない伝説があり、 ラース・ビハーリー・ボースという、1910年代のインドを代表する過激な独立運動の指導者の、日本での逃亡生活という数奇な運命の物語が潜んでいた。
英国から、その首に懸賞金までかけられていたR・B・ボースを、匿ったのが新宿中村屋であり、その後、店主の娘と結婚したボースは、日本に帰化し、 日本人として、祖国インドの独立を目指すことになる。
このような過程の中で、ボースによって伝えられたのが、中村屋のインドカレーであった。
西洋経由で日本に入ってきたカレーに対して、「インド貴族の食するカリーは決してあんなものではない」と不満をもっていた ボースは、イギリス人によって作り変えられた「カレー」ではなく、インド人が食べている「インドカリー」を売り出すことで、 日本人の目を「現実のインド」に向けさせようとした。
「敵はソ連・アメリカではなくイギリス」なのであり、
「日本を盟主とするアジアの開放」が必要であるが、
「アジアの開放は、疑もなく、平等の原則の下に立つアジアの連合に基くものである」そして
「インドさえ独立すれば、残りのアジア諸国はすべて自動的に独立する」というのである。
新宿中村屋が、今なおこだわり続ける定番メニューの「インドカリー」は、「恋と革命の味」だったのだ。
大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞「大賞」、同時受賞。
インドと日本をまたぐ「国際思想史」の研究書であると同時に、数奇な運命を歩んだ人物のヒューマン・ドキュメントとしても読める。 これほど興味深い本にはめったに出会えるものではない。
(小熊英二)
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