徒然読書日記200607
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2006/7/25
「八日目の蝉」 角田光代 読売新聞
不倫相手の留守宅に忍び込み、眠っていた赤ん坊を見て、思わず連れ去ってしまったヒロイン・希和子。 生まれるはずだった子供と、不倫相手の妻が産んだ女児を重ね合わせ、希和子は薫と名づけたその子を抱いて逃亡生活を始める。
母子手帳もない根無し草のような逃避行に疲れ果てて飛び込んだのは、理由ありな女たちの「駆け込み寺」のような集団施設「エンジェル・ホーム」。
親子の絆を否定するような教義を持つ施設の中で、皮肉なことに希和子と薫の親子の情愛は育まれていった。
「エンジェル・ホーム」からの脱出。四国での束の間の平穏な暮し。意外な形での発覚と逮捕。と、ここまでが物語の前半部分。
後半は、実の親の元に引き取られた薫の、家族全員が「何かが違う、こんなはずじゃない」という感情を押し殺したような「その後の人生」が描かれる。
決定的な事件の後も、日常は続く。寿命が1週間しかない蝉が、何かの拍子で8日目=あるべき人生から、大きく逸脱した世界=を生きることになったら……それでも懸命に暮らすしかない。
角田光代は、実は初めて読みました。
前半部分は、さすがに「直木賞作家」と、感心しながら読みましたが、後半部分は、新聞連載としては幾分「足取り」が重かったような気もします。
町田康のように、新聞連載は前半で打ち切って、単行本で後半を一気に読ませる、というのがよかったのではないでしょうか?
それにしても、このごろの新聞連載、
読売新聞は
角田光代 『八日目の蝉』
池澤夏樹 『光の指で触れよ・すばらしき新世界U』
朝日新聞は
桐野夏生 『メタボラ』
吉田修一 『悪人』
ついでに地元の北国新聞までが
船戸与一 『藪枯らし純次』
といずれも力作揃い、角田光代の次はなんと松浦寿輝なんだそうです。
ところで、新聞連載のもう一つのお楽しみといえば「挿画」ですが、 こちらは、吉田修一『悪人』の「束芋」(タバイモ)がピカイチ。 いま「原美術館」で展覧会をやっているらしいので、「ワタリウム美術館」の「ナム・ジュン・パイク」展と併せて、覘いてこようと思っています。
そうです、わたしは明日から週末は東京へ出かけるのであります。
2006/7/21
「パズルでめぐる奇妙な数学ワールド」 Iスチュアート 早川書房
その海賊は気性も荒いが、民主的な決定もくだす。つまり、襲撃のあとで戦利品を分けるときには、もっとも冷酷非情なメンバーが方法を提案し、全員が賛否を投票するのだ。このとき、賛成が半数に満たないなら提案者は死刑にされ、つぎに冷酷非情なメンバーが新しい提案をする、と決められている。 「海賊版 多数決の原理」
あなたが相手の考えを知っていて、そのことを相手も知っていることが、あなたの推理の前提になる。 「推理の入れ子はどこまでつづく?」
二人のあいだでケーキを公平に分けるのは簡単だ。「わたしが切って、あなたが選ぶ」だけでよい。三人以上の場合には、公平な分配はもっとややこしい作業になる。
「恨みっこなしの山分けの方法」
正方形の床に全て異なる大きさの正方形のタイルを敷き詰めることは可能だろうか。 「四角を四角に敷き詰める」
ピラミッドの建造には、いったい何人の労働者が必要だったのか?数学の観点からは、単なるエネルギーの問題とみなせばわかる。 「ピラミッド建造計画を再現する」
ある人が鏡張りの部屋でマッチを擦る。同じ部屋にいる別の人には、その人のいる場所がどこであったとしてもマッチの炎が見えるのだろうか? 「照明の死角を証明する」
バターを塗ったトーストがテーブルから落ちると、床につくのはかならずバターを塗った面だ。
「マーフィーの法則の真実」
どの問題をとってみても、身近な出来事の小さな疑問に端を発しながら、興味津々で、読みどころ満載の愉しいエッセイが20編。
しかも、その奇妙な世界の裏側には、最先端の数学理論が隠されているのですから、読み応えも十分です。
というわけで、冒頭の問題。
海賊が10人で金貨が100枚のとき、もっとも冷酷非情なメンバーは最大数を獲得するために、どんな提案をするべきでしょうか?
答え 自分が96枚とり、特定の4人に1枚ずつ与える
さらに、海賊が500人いるのに、金貨が100枚しかない場合は、どうなるでしょうか?
答え 最初の44人が死刑になり、45人目が、特定の100人に1枚ずつ与え、自分は1枚も取らないことで死刑を免れる
どちらも、想像を絶する回答ですが、海賊が2人だったらどうなるかというところから、地道に推論を進めていくのがポイントになるようです。
2006/7/16
「9条どうでしょう」 内田樹他 毎日新聞社
「虎の尾」が「踏むこと」をアフォードする種族がこの世には少数だが存在する。それを口にすると「多くの人が怒りだすことが確実であることば」が脳裏に浮かぶと、それを口にせずにはいられない人々である。・・・
私たちがいま直面している出口の見えにくい思想的状況の檻から逃れ出るために必要なのは、政治史や外交史についての博識でもなく、「政治的に正しいこと」を述べ続ける綱領的一貫性でもなく、世界平和への誠実な祈念でも、憂国の至情でもない。この硬直したスキームの鉄格子の向こうに抜けられるような流動的な言葉である。(まえがきにかえて)
というわけで、内田樹が「この憲法論」のために厳選した 「虎の尾アフォーダンス」傾向のある「脱臼性の言葉」の使い手とは、
町山智弘
「ベイエリア在住町山智弘アメリカ日記」
小田嶋隆
「偉愚庵亭憮録」
平川克美
「カフェ・ヒラカワ店主軽薄」
いずれ劣らぬ、錚々たる論客ぞろいなので
「改憲するなら徴兵を!改憲派は率先して戦場へ」と叫ぶ、「軍隊大好き」の「在日2世」の町山も
「筋金入りの嫌韓が、理想としている国は、韓国だ」と看破し、9条前文の末尾に「(笑)」を付け加えただけの9条改正案を提案する小田嶋も
「戦争そのものを否定するという迂遠な『理想』を軽蔑するものは、軽蔑されるような『現実』しか作り出すことはできない」と結論する平川も
向いている方向は概ね一致しているが、それぞれが辿る「筋道」と、独特の「語り口」がかなり異なっているので、一風変わった「憲法論」を十二分に楽しむことができる。
しかし、内田樹の相も変らぬ「ひねった」論理の、切り口の「冴え」は、頭一つ抜けているように感じた。
憲法9条という非現実的な「縛り」を日本が受け入れているのは、それが被−侵略というかたちで破綻したときの目の眩むような絶望と、抑圧されていたミリタリズムのマグマが悪魔の哄笑とともに噴出する感触を無意識のうちに欲望しているからかもしれない。
だから・・・
「憲法9条のようなものを持っている国を侵略してはならない。」
2006/7/12
「クワイエットルームにようこそ」 松尾スズキ 文藝春秋
わたしは、ゲロ(多分、自分の)があふれんばかりに注がれたコップを片手に、でもって、もう片方の手は腰にっていう、いわゆる銭湯で牛乳を一気飲みするオヤジみたいなポージングで、今まさに「うがい」をしようとしているのである。
恋人との別れ話の縺れから、オーバードーズ(薬の過剰摂取)して昏睡に陥ってしまった、28歳の雑誌ライター・明日香が、最悪の夢(自分のものだから飲み込むことはできても、「うがい」は勘弁してほしい)にうなされながら目覚めたのは、ステンレス製のむき出しの便器と、ステンレス製のドアに囲まれた、ベッドの上だった。
救急車で運び込まれ胃洗浄された内科の病院から、転送され、点滴につながれ、三点拘束までされたこの部屋は、K精神病院の「閉鎖病棟」の中でも、「人に迷惑かけるダメな人が入る部屋」『クワイエットルーム』なのだった。
棒みたいに痩せて、ご飯を睨んでいるだけの拒食症患者。
「もう、頭燃やしません!」と宣言するチリチリ女は、異様に焦げ臭い。
体育座りをして、廊下を行く人に点をつける、50歳くらいのおばさん。
「死ぬ気はなかった」「ほとんど事故なんです」
わたしは「間違って」ここにいるんだから。
と、他の「患者」たちと、適度な距離を保ちながら付き合っていくうちに、彼女たちが抱えるそれぞれの「事情」や「悩み」が、深く心に染み込んでくることになる。それは、
「死ぬ気はなかったのも事実だが、死ぬ以上の量の薬を飲んだのも事実だ。」
という「最高にめんどくさい女」が着地するべき「正しい場所」だったのであり、心から癒され、立ち直るためには、避けて通ることのできない「シナリオ」でもあったのだろう。
「あたし、うっとうしい?」・・・
「うっとうしい。・・・うっとうしいよ」
目を見ながらそう言われ、もちろん受身の態勢をとってはいたが、正直、きつかった。きついが、きちんと自分の、きっと生涯ぬぐい切れない、ぬぐってもぬぐっても毛穴から湧いてくるだろうこのうっとうしさを認めないと、鉄ちゃんと別れられる気がしなかったのだ。・・・
「長い罰ゲームだったね」
「・・・・・・・・」
「お疲れ様でした」本当に本心からそう言った。
鉄ちゃんは、ゆっくりゆっくり倒れこむように面会室のテーブルに額を乗せて、しゃくり上げるように泣いた。
2006/7/9
「ヒトラー・コード」 Hエーベルレ 講談社
かつて炎と燃え盛っていたヒトラーの目は死んだようだった。顔は土気色で、目の下には濃い隈が浮き上がっていた。左手の震えが今では頭にも全身にも及んでいるようだった。ほとんど抑揚のない声でヒトラーは言った。 「わたしが死んだら遺体を焼却せよと命じてある。わたしの命令が精確に遂行されるように、君たちも留意してくれたまえ。わたしの遺骸がモスクワへ運ばれ、見世物小屋でさらしものにされるのは御免だ」
前日に結婚式を挙げたばかりのエヴァ・ブラウンとともに、密室の地下壕でピストル自殺を遂げたはずの「ヒトラーの死体」が消えた。ヒトラーの種を宿したエヴァの失踪は、ネオ・ナチ帝国の再生にかけるヒトラーの怨念のなせる技なのか?現場に残された謎の「逆カギ十字」の紋章に秘められた暗号の意味は?
とくれば『ダヴィンチ・コード』の世界だが、 残念ながら、『コード』は同じでも、こちらは純然たるノン・フィクションなのである。しかし、
「お気に入り」のみを集め、毎晩のように催される「食事会」における、側近たちとの意外なほどくだけた会話。機嫌がよければ「物まね」さえが披露される。
その後、深夜にかけて開催される「作戦会議」。悪化する戦況に苛立ちを隠せず、怒鳴りまくるヒトラーと、卑屈さばかりが目立つ側近たち。一時は信頼を得、抜擢された幹部たちの相次ぐ裏切り。
「不眠症」に悩み、興奮剤のひっきりなしの注射がなくてはならないほど蝕まれてしまった身体、精神、頭脳。最後は眼球にまで「興奮剤」を射つのである。
この「報告書」を作成したのは、ソビエトのNKVD。のちのKGB、つまり諜報機関である。終戦後、捕虜となったSS将校に対する尋問から、ヒトラーの日常行動に関する正確な事実を集め、「日記」のような形で再構築して見せた。
読者は?
スターリン。
そう、この本は「スターリン」を「唯一の読者」として、スターリンに読んでもらうためだけに、スターリンの「関心」と「好み」に合わせて編まれた「報告書」なのである。
「強制収用所」や「大量虐殺」の話題はほとんど出てこない。
スターリンの「関心」は「ヒトラーは本当に死んだのか」ということ。
「好み」は「独裁者の私生活」や「人心掌握術」「ヒーローの没落」。
かつて、自分に「煮え湯」を飲ませてくれた、最大のライバルに対する「覗き見趣味」を、十二分に満たすべく編集された本なのである。
「戦後60年も経過してから、これほどの新資料が出てくるとは、誰も夢にも思わなかったに違いない」(立花隆)
2006/7/8
「安徳天皇漂海記」 宇月原晴明 中央公論新社
鎌倉時代初期、政治の実権を奪われ、和歌に打ち込む三代将軍、源実朝は、壇ノ浦の戦いで幼くして入水した安徳天皇の悲劇を聞かされる。しかし死んだはずの幼帝は、琥珀に包まれる異形の姿と化し鎌倉に流れ着いていた。
平家一族の没落の歴史を、三種の神器を抱いて入水することとなった安徳天皇の数奇な運命とともに、象徴的に描き出した『平家物語』
母方の北条氏に政治の実権を奪われた実朝が、武門の誇りを踏みにじられながら、鬱屈した日々のなかで、もてあました才能を注ぎ込んだ『金槐和歌集』
クビライ・カーンの巡遣使として、世界各地の「ここだけの話」を仕入れ、自らの目と耳で吟味選別し、カーンに伝えることとなったマルコ・ポーロの『東方見聞録』
それぞれが、それだけで「ゾクゾク」するほどの「物語性」に溢れているのに、それを一つの鍋に入れて「グツグツ」煮込んでしまったら・・・
しかも、「奇想」とも言うべき創造力を駆使しながら、ストーリー展開の土台となっているのは、鎌倉時代の公式記録とも言うべき『吾妻鏡』。歴史的な裏付けもしっかりしているのである。
古今の名著へのオマージュをいくつも織り込み、時空を超えて史実を結ぶ手法を「物語の遺伝子組み換え」
と、著者自らが豪語するこの手法は、雄大な背景と壮大な視野を持つ、一大歴史スペクタクルともいうべき傑作を生み出した。
本年度「山本周五郎」受賞作品。
現在「直木賞」候補作品に挙げられているが、受賞有力なのではないかと思う。
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