徒然読書日記200601
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2006/1/31
「ほとんど記憶のない女」 Lデイヴィス 白水社
もし私が私でなく下の階の住人で、私と彼が話している声を下から聞いたなら、きっとこう思うことだろう、ああ私が彼女じゃなくてよかった、彼女みたいな話し方で、彼女みたいな声で、彼女みたいな意見を言うなんて。 だが私は私の話しているところを下の階の住人になって下から聞くことはできないから、私がどんなにひどい話し方なのか聞くことはできないし、彼女でなくてよかったと喜ぶこともできない。 そのかわり私がその彼女なのだから、彼女の声を下から聞くことができず、彼女でなくてよかったと喜ぶことのできないこの上の部屋にいることを、私は悲しんでいない。 「下の階から」
というのが(ちなみにこれで全文引用です)比較的短い方になる(最短は2行!)短編が全部で51編。論理的にひねりを効かせたものが多く、私のような「理屈っぽい男」に程よい刺激を与えてくれる。
母親との最後のお別れに失敗しないためには母親を四度失わなければならない、という「二度めのチャンス」
女はハエが入ってくるから網戸を閉めておくべきだといい、男は開けてあるのは、ハエをだしてやっているのだという「認めない」
彼の「二度と戻ってくるな」という言葉が「僕はきみに対してとても怒っている」という意味で言ったに過ぎないという事実が私を傷つけるという「出ていけ」
などが、その部類です。
2006/1/31
「9・11生死を分けた102分」 Jドワイヤー 文藝春秋
「馬鹿みたいなんだ」彼は言った。「実はローマ旅行の予約をしてしまってね、リズ。キャンセルしてくれないか」
「エド」リズは言った。「あなたはそこから出てくるのよ。消防士がそっちに向かっているから。あなたはどんな問題でも解決できる人でしょう。もうすぐそこから出てくるわ」
2001年9月11日、ワールドトレードセンター北タワーへのハイジャック機激突。その瞬間から、第2機による南タワーの崩壊を経て、ついにすべてが姿を消すまでの102分間の、これは詳細な記録である。 この時間内に発生した、様々な経歴の人々がそれぞれに主人公となった無数の出来事の記録(それは警察や消防の無線交信記録のみならず、電話、携帯電話、電子メールなど様々な形で残されている)を読めば、 北タワーでは102分、先に倒壊した南タワーでも57分、何千人もの人々が避難する時間があったのに、錯綜する情報の混乱のなかで避難する術を失い、その場に閉じこめられ命を落としたという事実を知ることになる。 彼らの多くは、テロではなく、経済合理性を追求し避難計画を犠牲にしたずさんな建物に命を奪われたのである。追い討ちをかけるように、消防と警察の醜いライバル意識が、相互の連携協力を妨げ、貴重な脱出の機会を奪っていった。
40歳の誕生日に、リズを驚かせてやろうとしていたエドの素敵な計画がついに実現することはなかった。
2006/1/24
「上司は思いつきでものを言う」 橋本治 集英社新書
あなたの会社は「埴輪の製造販売」を業務としている。「古墳を作る一般の人向けの、副葬品としての埴輪を作り、売る会社」なのだが、もちろん業績不振である。 「上の方」は「我が社の持てる伝統的な技術力、ノウハウを活かした新展開」を求め、この苦境を打開するため、あなたに「なんかアイデアを出せ」と命令する。 方向は二つある。一つは「古墳築造業者」を巻き込んで「夢のある古墳にご先祖様を」というキャンペーンを実施し、古墳の需要を喚起して、副葬品としての埴輪の需要アップに結びつけること。 しかし「古墳専門の築造業者」などというものは既に存在しなくなってしまっていた。(そのくらいとっくに気付けよ!) そこで「古墳」との訣別を前提とした二つ目の方向に目を向ける。埴輪を単独で「美術品」として売り出せばいいのだ。「ハニワくん」なんて、いいじゃないか!!
この素晴らしいアイデアを営業会議で提案したあなたは、勝利を確信している。ところが、ここで上司が「それはどうかな?」と異議を唱えることになるのである。
結局社長の決裁で、あなたの会社は今まで通り「副葬品としての埴輪」を製造し続け、それと同時に、社内の空いたスペースにコンビニを開く。どうしてそんなことになってしまうのか? 「上司は思いつきでものを言う。」からである。ではそれはなぜなのか?なぜいつも、「正しく賢い部下と愚かなその上司」なのか。「正しい上司と愚かな部下」という組み合わせはないのか? 残念ながら、それはない。部下を愚かなままにしておく上司は「愚かな上司」以外の何者でもないからである。詳しく知りたいという方は、是非この本をお読みあれ。 そんじょそこらのビジネス書では得ることの出来ない、貴重なヒント満載の本である。
2006/1/23
「国売りたもうことなかれ」 櫻井よしこ ダイヤモンド社
日本人が自国の歩んできた歴史を知ろうとしないことだ。そのために自己が何者であるか、何をなしてきたのか、なさずにきたのかの認識と把握が難しい。 自分の国の歴史について十分に知らないために、他国にその歴史を論難されても検証できず、容易に、他国の立場から見た日本観をそのまま受け容れていく。 他国は様々な政治的思惑、経済的思惑、国際社会で生き延び、さらに力を付けていくための駆け引きを考えながら、白を黒、黒を白と言いくるめる手法で、日本を論難する。 その主張は事実に即したものというより、武力を使わない闘い、つまり国益のためには嘘も是とする外交の産物に過ぎない。 にもかかわらず、戦後60年間、日本は愚直にそうした他国の一方的批判を受け容れ、謝罪し、頭を垂れ続けてきた。
櫻井よしこの背中には、いくつものボタンが付いていて、「中国」「北朝鮮」「韓国」などの言葉に敏感に反応して。自然にスイッチがはいる仕掛けになっている。 多くの場合それは自動応答システムとなっていて、頭の中に埋め込まれているICチップには、「靖国参拝」「南京虐殺」「拉致家族」「強制連行」「歴史教科書」「竹島領有権」など、 相手の話題に即応可能な、「売り文句」が詰め込まれているのだ。その物言いには、極めて膨大な(いささか偏向した)データの裏づけがあるとはいえ、えてしてワンパターンの印象となってしまうのは、 恐らくそのせいであると、胸のすく思いを感じながらも、私はかねてからそう憶測している。
2006/1/21
「夜市」 恒川光太郎 角川書店
第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
妖怪たちがさまざまな品物を売る「夜市」では、望むものは何でも手に入れることができる。小学生の頃にふとしたことから夜市に迷い込んだ裕司は、そこで「野球選手の器」を買った。 それはとんでもなく高いもので、そこは人攫いの店だったので、お金を持っていなかった裕司は、引き換えに自分の幼い弟を売った。そして十年後の今夜、弟を買い戻すために、裕司は再び夜市を訪れた。
ホラー大賞というわりにはあんまり怖くない。ありえない世界が身近に展開され、自然に溶け込んでいけるという意味で、何となく宮崎駿の「異形の世界」に近いものを感じる。情景描写も映像的で美しい。 個人的には「風の古道」の方がより詩的感性にあふれていてお奨めだが、いずれにしろ「これがデビュー作!」という新たな才能の出現である。(もっとも、最近はそんなのばかりですが・・・)
2006/1/19
「千々にくだけて」 リービ英雄 講談社
evildoers と男が言っていた。
悪を行う者ども、と下手な和訳が頭に響いた。日本語にはすぐならないことばだった。
2001年9月、長年暮らす日本から、母国アメリカへ里帰りしようとしたエドワードは、禁煙回避のため経由することにしたカナダで足留めされてしまう。
南の塔が崩壊したあとに、北の塔も、たやすく、流れ落ちた。見ているエドワードの耳に、音が響いた。
ちぢにくだけて たやすく、ちぢにくだけて broken,broken into thaousands of pieces
宿泊先のホテルのテレビから流れる「新しい大統領」の南部特有の間延びした言葉や、「あごひげのやせた男」の全く理解できないリズミカルな言語と英訳された字幕。 そうした音の塊を、いちいち日本語に翻訳しながら、うまく意味が取れない苛立ちを感じている自分を発見する。
日本でもアメリカでもない場所で、日本語で小説を書くアメリカ人が、アメリカへも日本へも帰ることの出来ない「宙吊り」の状況の中から、圧倒的な破壊という事態のグロテスクさが浮かび上がってくる。
第32回大佛次郎賞受賞。
2006/1/15
「凍」 沢木耕太郎 新潮社
作業によって雪まみれになった二人はそのままテントに入ったが、自由になる空間はまったくなかった。なにしろ幅が最大で五十センチしかないのだ。 二人が並んで横になる空間はなかった。まずひとりが横になり、もうひとりが反対側からその足の間に身を横たえる。そして自分の足を相手の腹から胸のあたりに置く。 下になった者は重さに耐えなくてはならないが、それ以外に眠りようがないので我慢するより仕方がなかった。
ハーケンからロープで結んだテントは「薄く切ったカステラをそのまま山肌に貼りつけたような」状態だった。「テントの口の向こうは、垂直の壁のように切れ落ちている。 もし、支点がはずれれば、千メートル下に転落することになる」この状態で、お湯を沸かし、五目御飯を食べる。登りの標高七千メートルでの「最悪」と思われたこのビバーグも、 降りではさらに過酷な状況に追い込まれた。谷に向かって斜めに下がっているようにしか削れなかった十センチ足らずのテラスとも言えないテラス。
それは二羽の鳥が断崖に生えている木の枝に留まっているような姿だった。
(NHKの土曜ドラマ「氷壁」を見ていただけると、このあたりの雰囲気が少しは飲み込めるかもしれない。)
最小限の装備で、単独あるいは少人数でベースキャンプから一気に頂上を目指すという「アルパイン・スタイル」で、世界最強のクライマーとして知られる山野井夫妻が挑んだ ヒマラヤの高峰ギャチュンカン。この壮絶で崇高な極限の物語を読んでも「何故、そうまでして、山に登るのか?」私には到底理解できそうにもないが、挑戦したものにだけ与えられる「極み」のようなものがあるのであろうことは何となくわかる。
結局この登頂失敗で、夫が手・足の指十本、妻は手・足の指十八本を失うことになった(もっとも、妻は既に八本を失ってはいたのだが)夫妻が、この物語の最後に、この山に再度訪れたのは、残してきてしまったゴミを回収するためだった。
2006/1/13
「シリウスの道」 藤原伊織 文藝春秋
東京の大手広告代理店に勤務する辰村のもとに、メーンスポンサーの新規事業にまつわる大型の競合案件が持ち込まれる。広告主の御曹司の妻は幼馴染の明子。 辰村にとって、それは最も引き受けたくない仕事であった。25年前、大阪で、明子、勝哉という幼馴染と過ごした辰村の少年時代には。誰にも言えない秘密があった。そして、何者かがその秘密を暴こうとしていた。
社内にも(いや、社内にこそ)足を引っ張ろうとする大きな「敵」がいる、という圧倒的に不利な状況のなかで、愚直なまでに自分に筋を通し、わざわざ困難な道を選ぶ。という生き方は、 実際にそんなことをしたら、後ろを振り向いたら誰もいなかったという結果になることがわかっているだけに、せめて物語の中だけでもという意味で、とても魅力的な誘惑に溢れているように思うものである。 プロジェクトメンバーに選ばれた面々も実に個性豊かで、わくわくさせてくれる。なんといっても、途中入社の現役大臣の「バカ息子」という戸塚が実は、という設定が泣かせてくれる。 しいて言えば、少年時代の秘密というのが、それほど物語の本筋に効いていないような気がするわけだけれど、まあミステリー的な雰囲気も添えてみたというところで、 なんといっても藤原伊織、これはやっぱりハードボイルドの超逸品として、存分に楽しませていただきました。
2006/1/12
「ガイアの素顔」 Fダイソン 工作舎
この物語には今読んでも注目すべき事柄が二つ描かれている。一つは、天文学者であるはずの主人公が資金集めをしたり机にかじりついて計算をするばかりで、肝心の空を観察していないこと。 もう一つは、科学プロジェクトの推進力となるのが組織の勢力拡大の野心であって知的好奇心ではないことだ。この二つの事柄をみるにつけ、 一九三三年から一九九一年という歳月をへても科学者の実態はさほど変化していないことを思い知らされる。
本書は「20世紀を代表する天才物理学者」ダイソンが1958年から1990年にわたって発表した29本の随筆や書評、講演録を6つのテーマに分けて収録したものである。 そのテーマも「宇宙から素粒子、地球環境、生命科学、政治や教育、そして書評や身近にいた人物のスケッチまで多岐にわたっており」しかもいずれも驚くほど深い知識と洞察に裏付けられたものなのである。
旧ソ連の世界最大の光学望遠鏡の失敗を例に「国の威信で建設され、科学的メリットとは無関係」な巨大科学信仰を痛烈に批判し、 米国の次期超大型素粒子加速器建設計画に対し、「適切な大きさであること」の重要性を訴えるその論調は、例えのうまさもあって、後輩たちが陥穽に陥らぬようにという暖かさに包まれたものでもある。 そのことは、自らが9歳の頃に書いた「エロスと月の衝突」というSF小説に対する、ダイソンの感想文を読めば明らかだろう。
2006/1/2
「クライム・マシン」 Jリッチー 晶文社
「あなたが殺人した現場をみた」と殺し屋を訪ねてきた男は、タイムマシンを発明したのだという。嘘に決まっていると思いつつ、 様々な証拠を見せ付けれるうちに、本当なら手に入れたいという欲望が溢れだして・・・(クライム・マシン)
突然カジノに現れ、毎日少しずつ勝って帰る男は、「ルーレットの必勝法をあみ出した」という。はじめは一笑に付していたカジノオーナーも、 それが次第にエスカレートするに及んで、恐慌をきたすことになる・・・(ルーレット必勝法)
「妻殺し」の疑いをかけられた男が次第に追い詰められていく、というわかりやすい「サスペンス」と思い込んでいた読者は、追い詰めたはずと思い込んだ人びとと同時に、 土壇場でうっちゃりを喰らうことになる・・・(エミリーがいない)
ユーモアとウィットに満ち溢れた珠玉の短編ミステリーが17編。あまりの面白さにすぐに読み終わってしまうと寂しい思いが募るので、大切にお読み下さい。
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