徒然読書日記200408
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2004/8/30
「黄金旅風」 飯島和一 小学館
舞台は江戸初期の長崎。南蛮貿易の中心地として栄えた時代から、一転切支丹弾圧と鎖国の時代へと変貌する中で、暗殺された父を継いで長崎代官となった平左衛門と 火消組の頭となった才助は、手の付けられない悪童時代を共に過ごした幼馴染だった。二人は共に力を併せ、長崎奉行の野望に翻弄され始めた長崎の町の自治を守るために奮闘してゆく。
と粗筋を示して見せても、この小説の魅力をお伝えすることはできないだろう。ページを開けば、海の匂いと火の粉の煌きが身のまわりに迫ってくるような臨場感の中で、 いつしか自分も長崎の民となり、悪辣な権力の暴虐無尽に憤り、光り輝くヒーローの八面六臂の活躍に胸躍らせるのである。
2004/8/27
「介護入門」 モブ・ノリオ 文芸春秋
本年度芥川賞受賞作。マリファナ常習者の孫が、自宅で身動きできぬ祖母の面倒を見る。これは実話か?と思わせるようなその風貌のほうが話題になったという意味で、 前回の受賞と同じような雰囲気。(内容が極めてまっとうな芥川賞小説である点も同様。今回のほうが、大江健三郎や村上龍もどき、という意味では、より古典的といってもいいかもしれない。) というわけで、自民党代議士になる一番の近道が、「虎の穴」で修行してプロレスラーになることであるのと同じ意味で、このごろの芥川賞は「ねらって取れる」ようになってきている。 (「そんならお前、取って見ろよ。」と言われても、「立候補してみろよ。」と同じぐらいに困ってしまうけどね。)
で、まあそれなりに面白く読めたのだけれど、今回何といっても面白かったのは、審査員の選評である。なぜなら、芥川賞の選考は審査員の感性の「試金石」と言うべきものになってきているから。 もう無理してついていくこともないように思われるけど、山田詠美の感度と比較されたら、たまったものじゃありませんか?東京都知事殿。
2004/8/22
「マネー・ボール」 Mルイス ランダムハウス講談社
ヤンキース1億2600万ドル、アスレチックス4000万ドル。2002年開幕時点での選手の年俸総額である。 オリオールズ300万ドル、アスレチックス50万ドル。2000年から2002年までの3年間で1勝するために要した投資額である。 にもかかわらず、この間にアスレチックスは3年連続でプレーオフに進出し、年俸最高額を誇るヤンキースと覇権を争うような成績を残している。 つまりアスレチックスは、球界の常識を覆すほど「投資効率」のいい球団なのである。では、それは何故なのか?
「打率」ではなく「出塁率」を重視する。(四球は相手投手を疲労させるので、安打より評価される。) 「打点」は打者の評価にならない。(むしろ出塁の評価として「得点」を重視すべき。) 「犠打」「盗塁」は無意味。(アウトの数を増やすリスクが大きくなるだけである。) 「安打」は投手の責任でない。(打球の飛んだところが悪かっただけ。外野の頭を超える長打は投手の責任である。)
等々、完璧なるデーターに裏付けられた「評価基準」に基づき、他球団では評価されていない(評価基準が違うからね)選手を、ドラフトやトレードで安く仕入れてくるのである。 (それなりの成績を残すようになると、その選手の年俸が高くなるので、他球団に高く売ることまでやってのけるのだ。)
余談であるが、オリックスと近鉄の合併問題。いらなくて余った選手を全部巨人が引き取って、「セ巨人」と「パ巨人」に二分すると言うのはどうだろうか? 12球団、2リーグは維持できるし、セもパも本音で言えば、巨人と同じリーグなら文句ないんだろうし、第一、清原とペタジーニは分離したほうが、巨人だって絶対強くなると思うんですが・・・ というわけで、目から鱗の、絶対お奨めの1冊です。
2004/8/19
「世界にひとつしかない「黄金の人生設計」」 橘玲 講談社+α文庫
「不動産」と「生命保険」と「公的年金・医療保険」という、人生設計における最大の選択肢がはらむ問題点を徹底的に暴き出した名著。 実は1999年のベストセラー(以前に、この続編ともいうべき「黄金の羽根の拾い方」はご紹介しましたね。)の文庫化なんですが、 現時点でも、何の違和感もなく成立するというのが、凄いというよりも、日本という国が無駄にしてしまった時間の大きさを思うと空恐ろしいという本です。
で、この本の中で論じられている「少子化」の問題について。世界最高額の教育費←まともな親は私立を選択(いわゆる「お受験」とは別問題)← 公立中学では子供の安全は保証されない(私立には退学処分という暴力装置がある)←授業が成立しない公立小学校(ゆとり教育の弊害で塾に頼った中学受験) という「風が吹けば桶屋が儲かる」のような筋道で議論が組み立てられ、「子供がいるなら家は買うな」「教育サービスに市場原理を」「教育費は親が負担して当然という常識を変えよ」 という処方箋が提案されているわけですが、トリッキーなようでいて、かなりの妙案と感じた次第です。
2004/8/6
「ダ・ヴィンチ・コード」 Dブラウン 角川書店
アナグラムを中心とした謎解きの筋立ては、はっきり言ってB級作品だと思う。ではどこが面白いのかというと(ここから先は、未読の人は読まないで下さい。)
「<モナ・リザ>は女装したダ・ヴィンチの自画像だった。」だの「最後の晩餐にはキリストの最愛の妻が描かれている。」だのという、美術史を巡る驚愕の真実についての薀蓄に溢れているという部分なのである。
今回は「聖杯伝説」と「シオン修道会」にまつわる謎(れっきとした事実)の解明を取り上げているが、本書がベストセラーになると同時に注目された前作「天使と悪魔」では、 ヴァチカンとガリレオを巡るという、聞いただけで心ときめくような謎(科学と宗教の対立ですよ)をテーマに取り上げているのをみても、 この方面にはまだまだ魅力的なテーマが山積しており、シリーズ化することは当然であろう。いわばイギリス版の「京極堂」の誕生を素直に喜びたいと思う。
2004/8/1
「昭和史」 半藤一利 平凡社
自分自身のことを言うと、日本の歴史については、縄文時代から徳川吉宗くらいまでが何とか細々とつながっていて、あとは仏教や芸術(特に建築、当たり前か)などのテーマ別に妙に詳しい部分があったり、 明治維新や戦国時代など、小説やドラマの知識で補強されている時代があったりという具合で、「昭和史」というものはかなり怪しげな状況であることは否定すべくもない。 これはどの教育ステージにおいても、教科書の前半部分に時間配分をしすぎて、後半部分が手抜きとなるため、その繰り返し効果によるのではないかと考えている。
というわけでこの本は、そんな欠落部分を、懇切丁寧に、これでもかとばかりに埋め合わせてくれる、落ちこぼれへの補習講座のような趣であるのだが。 まるでその場に居合わせたかのような、「見聞き」の語り降ろしというスタイルをとりながら、実際にはそのほとんどは既存の文献・資料の読み込みから来るものであれば、 「見たくない現実を見ようとしない」という、これも一つの「バカの壁」を乗り超える作業というべきなのだろう。
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