徒然読書日記200405
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2004/5/29
「世界のすべての七月」 Tオブライエン 文芸春秋
1969年度の大学の同窓生が、2000年に一堂に会するという、31周年?の同窓会。(30周年を誰かがうっかり見落としてというありがちな設定) ヴェトナムに行くか、行かないか。それぞれの選択により、それぞれに「傷」を持つことになった二人の男。 二人の夫を持つ女と、30年間待ち続けてきた男の「意気投合」。 裏切ってしまった女の「言い訳」と裏切られてしまった女の「納得」。 忍び寄る「老い」、陰に潜む「病い」、噂にみちた同窓生の「死」。
集まってきた面々のそれぞれの「その後の30年」を間に挟むという章立てにより、表向きにぎやかに、どこかぎこちなく、同窓会は進行していく。 わたし達の七月は「まだ終わったわけじゃない。」という叫びにも似た「葛藤」は、似たような人生の岐路を迎えた身に、重く響いた。
2004/5/25
「虚妄の成果主義」 高橋伸夫 日経BP社
第1次世界大戦後の米国南部の小さな町。「ユダヤ人!」とやじる少年達の嫌がらせに困った仕立て屋は「私をユダヤ人と呼ぶたびに金を与えよう」と提案する。 喜んで毎日押しかけるようになった少年達に、与える金額を徐々に減額していくと、やがて「そりゃあんまりだ。」と文句を言って、二度と来なくなった。 始めは、内的動機づけにより直結していた「職務遂行」と「職務満足」が、「金銭的報酬」を媒介することによって切り離されてしまったのである。 (つまり、純粋に嫌がらせしようとして無償で行われていた行為が、金銭に結び付けられることによって、金額の減少で満足を得られなくなってしまったのだ。)
「日本型の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステム」 「賃金制度は、動機づけのためというよりは、生活費を保障する視点からの賃金カーブ設計」 「従業員の生活を守り、従業員の働きに対しては仕事の内容と面白さで報いるような人事システム」
それこそが「日本型年功制」の究極の姿である、というのが「要するに成果主義はみなダメなのである。」と言い切る著者の、胸のすくような主張なのである。
ところで、「成果主義」が「厳しく」「年功制」は「甘い」、というのは恐らく誤解である。 だって、本質的には「成果が出なかったから給料カットね、文句は評価システムに言ってね。」といいたい「成果主義」に対し、 「給料上がったんだから、成果出してね。」と暗黙のうちに自己責任を期待する「年功制」の方が、評価する側も、される側も「つらい」だろうと思うもの。
2004/5/23
「漢字の知恵」 阿辻哲次 ちくま新書
「正露丸」はなぜ「ラッパのマーク」なのか?
「正」という字は古くは「□」と「止」から成り立っており、「□」は城壁を表していた。 「止」は人間の足跡をかたどった象形文字であり、つまり「正」とは城壁に囲まれた集落に攻撃を仕掛けようとしていることを意味していた。 他者に対して戦争を仕掛けることは、自分自身を正当化する手段なので(対イラク戦争の論理そのままですね)「正」は「ただしい」という意味にも使われるようになった。 そこで「正」の本来の意味を表すために「征」という文字が作られた。つまり「征露丸」とはロシアを征伐する兵隊さんの常備薬であったのだ。
ベストセラーとなっている白川静「常用字解」の目くるめく漢字の世界に酔う前に、少しだけその世界をのぞいてみたいという方にうってつけの読み物です。
2004/5/22
「男と女の生物学講座」 Oジャドソン 光文社
○○をしながらこの手紙を書いているので、とても違和感があります。でも彼と私はもう10週間も○○中なのです。私は頭がぼ〜っとしているのに、 彼は相変わらずギンギンみたい。それはぼくが君に夢中だからだよって言うんですけど、私は、彼はただのアホじゃないかって思っています。どうしたら彼に、 ○○をやめさせられるでしょうか。 <インドのセックス酔い娘>
「彼が狂っているのは間違いないが、恋に狂っているのではなく、嫉妬に狂っているのだ。」というのが、相談を受けたドクター・タチアナのご回答。 女の子が貞操で、男には節操がないという、一般的な思い込みは実は間違いで、自らの遺伝子を継承するために、できる限り多くの男と○○しようとする女に対し、 男は女を独占しようと○○し続けざるを得ない、というのが「世界で一番タフ」という尊称と引き換えに、あわれな状況に追い込まれることとなる「インドナナフシ」の運命だったのである。
といったような、動物や昆虫たちの「下半身問題の悩み事相談」が目白押し。表現のいかがわしさとは裏腹に、内容の真っ当さは一級の折り紙つき。 生物の進化を巡る興味津々の話題満載です。(ちなみに、著者は「中年のおばさん」という予想を裏切る、ちょっとベビーフェイスの才媛です。)
2004/5/14
「空中ブランコ」 奥田英朗 文芸春秋
「イン・ザ・プール」のトンデモ精神科医・伊良部が戻ってきた。さらに巨大になって?(あれ以上巨大にはなれないか・・・)
今回もまた、患者よりは医者の方がはるかに重症な状況に陥ることにより、結果的に患者を癒してしまうという、あのパターンは健在なのだけれど・・・。 伊良部の背景の一部が明らかになったり(義父のヅラ)、癒しの役割を担う人物が別に現れたり(女流作家)と、話のパターンにふくらみも出てきたし、 お茶目さはますます増幅されて(空中ブランコ)、次回作も大いに期待される、超お奨めの娯楽大作であります。
2004/5/11
「ヘルタースケルター」 岡崎京子 祥伝社
伝説化した物語というものがある。この本の主人公「りりこ」もその一人であり、叙述のスタイルも途中で回想が入るなど、伝説の形を取っている。 しかも、この本では、著者の岡崎京子が伝説化している。この作品の連載を終えた後(1996年)、飲酒運転の車にはねられて、瀕死の重傷を負ったのである。 (最近になってようやく、リハビリの甲斐あって復活しつつあるらしい。)作品自体の論評はあえて控えておこう。この本をいつか入手しようと思っていたら、 息子も、娘も既に購入していたので、娘のを借りて読んだとだけ言っておこう。「ヘルタースケルター」世代を超えた傑作漫画である。
2004/5/10
「神、人を喰う」 六車由実 新曜社
人身御供譚とは、人を神の食べ物として犠牲にする物語である。そこには、美しい娘や幼子が無残にも神に貪り食われる様子がリアルに描かれている。 いったい、人々はなぜそのような恐ろしい物語を伝承してきたのか。そして、なぜ祭の度ごとにそうした物語の悲劇的な場面が想起され、再現されなければならなかったのか。
問題は、それが事実であったのかどうかということではない。そのように陰惨な出来事を、集団として大切に記憶・保存することの必要性がどこにあったのかということなのである。 「食」と「性」と「暴力」をめぐる大胆な考察の果てに、神への供物は最後は必ず村人に分配されることが指摘される。「神人共食」。「神が人を喰って」いたのではない、「人が神を喰って」いたのである。 それにしても魅力的なネーミングだこと。
2004/5/10
「あなたのマンションが廃墟になる日」 山岡淳一郎 草思社
スクラップ&ビルドは「結局。高くつく」。この小学生でも分かりそうな答えを引き出すために地球を半周してきたのか・・・。
英国141年、米国103年、フランス86年、ドイツ79年。住宅のリサイクル年数である。ちなみに日本は30年! その日本において、現在、築後30年を過ぎ「建替え」の問題に直面しているマンションが27万戸。そこで常に振り回される建築専門家たちの議論は「建替えた方が安い」。 老朽化した低層のマンションを高層化し、増えた住戸を分譲して、自己負担ゼロで建替える、という「錬金術」が、バブル崩壊によって通用しなくなった今、 マンション建替えがはらむ問題は、コミュニティの崩壊や、スラム化など、看過できない問題に発展しようとしている。
なぜ日本のマンションは欧米の3分の1という短い期間しか持たないのか?という著者の素朴な疑問の中にこそ、住居に対する根本的な「哲学」の違い、 「いい建物を永く使う」という再生へのヒントを見出すことができるだろう。
外断熱の関係で「北欧への旅」をご一緒させていただいた、山岡氏渾身のルポルタージュである。
2004/5/7
「見えないドアと鶴の空」 白石一文 光文社
今日このごろの「ベストセラー小説」として紹介されていたので、読んでみました。(さすがに、片山恭一「世界の中心で愛を叫ぶ」には手が出せませんでした。) で、感想なんですが、予想していたのとはまるで違う展開(読む前に想像していたのとも、読み出してからしばらく後に予想して投げ出しそうになったのとも)ではありましたが、それなりに面白くは読めた。 それ以上コメントのしようがない、というのが、この小説の人気の秘密なんでしょうね。「面白けりゃ、それでいいじゃん」という感じ。
洒落た会話や思わせぶりな設定で愛や苦しみ、やさしさやジョークをお手軽に書き散らしただけの小説はもう必要ありません。
・・・ふむふむ、なるほど。
自分が一体何のために生まれ、生きているのか。それを真剣に一緒に考えてくれるのが、本当の小説だと僕は信じています。
・・・え?
2004/5/1
「海のふた」 よしもとばなな 読売新聞
読売新聞土曜版連載が終了。実は「よしもとばなな」を読んだのは初めてだったので、一応記録しておこうと思いました。 読み口の良さは、まあ納得という感じですが、登場人物に「母=少し予知能力がある」という母の予知能力ってどこに出てきたのか?まったく記憶がない。 「海のふた」という詩(作者忘れた)に触発されて書き始めたものでしょうが、その鮮烈なイメージについに到達すること及ばず、時間切れとなったということなのでしょうか? 大江健三郎、よしもとばなな、と来て、次は、井上ひさし、だとか。ショートショート、劇中劇の連作らしいので、期待大です。
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