- 2003/2/28 「古武術に学ぶ身体操法」 甲野善紀 岩波アクティブ新書
- 「捻らない、うねらない、ためない」読売巨人軍・桑田投手、奇跡の復活劇で話題となった「古武術」の、これは「お師匠さん」の本。
多くのスポーツ理論が「ため」を重視する中で、いわば「反動をつけない」ことで相手の予測を裏切る動きの素早さを得ることができる。
球の速さは犠牲にしても、動きの速さが対応を遅らせ、実際にはこちらの方が早いわけである。(説明がへたくそでごめんなさい。)
「それは邪道だ」という常識や固定観念が、技術革新を阻む枷となっているという意味で、これは単にスポーツの世界にとどまることのない発想法につながるものではないかと思われる。
- 2003/2/26 「ブックストア」 Lティルマン 晶文社
- 「ザ・ウォール」と呼ばれる大きな書棚に、古今の名作文学や哲学書を可能な限り網羅し、作家による自作の朗読会を定期的に開催。店内の雰囲気は家庭的で、多くの文化人からサロンのように親しまれていた。
ニューヨークで最も愛された書店「ブックス・アンド・カンパニー」が78年にオープンし、97年閉店に追い込まれるまでの20年間の歴史を、店員と顧客(多くは作家)の証言で構成したノン・フィクション。
「売れる本を売る」のではなく「売りたい本を売る」わがままな本屋というのは「古本屋の親父」を老後の夢とする者にとっては垂涎の存在。本棚もあふれてきたし、「そろそろ開始してもいいかな」と心そそられる一冊でした。
- 2003/2/26 「破綻国家の内幕」 東京新聞取材班 角川書店
- 「天下り」の巣窟=土地改良事業、林業土木事業、建設業保証会社、簡保資金、道路公団ファミリー企業等々
公共事業、票とカネ、天下りを巡る利権の構造を「税金」の流れに着目して、一つずつ洗い出していく作業の成果が、上記の「腐りかけた国家にたかる銀蠅」の存在である。
わたしも建設業者の一員として、公共事業を巡るいくつかの話題について、知らないわけではないが、ここまで深く認識をしているわけではない。
誰もが薄々知りながら、深く知ろうとはしない事実。「利権」への憎悪に少しでも嫉妬がある間は(あなただけずるい)「利権」は決して消滅しない。
- 2003/2/23 「現代アラブの社会思想」 池内恵 講談社現代新書
- 「イスラーム的社会が実現すれば、それは理想的であるはずだ」というイスラーム教徒の間に共有されている「信念」。
それは「解決をもたらすための策」を提示することなく「既に問題が解決した状態」を描写することに主眼を置く。
「イスラームが解決だ」というこの極めて楽観的な信条は、そうした理想的な状態が出現するまでの間、問題は生じないものとしてしまう。
なぜなら、もし問題が生じるようなら・・・それは相手に責任がある。いつだって悪いのは相手の方なのである。
将来あるべきはずの若者が、国際テロに打って出ざるを得ない、アラブ世界の知的閉塞状況に切り込んだ快著である。
- 2003/2/22 「花火屋の大将」 丸谷才一 文芸春秋
- 扇谷正造が朝日新聞の学芸部長に就任した際の挨拶は、「雑学が大事だ」というもので、鮨の話に始まり、西部劇談義に移り、江戸時代の儒者・俳諧師のゴシップ、時代劇映画、印象派の絵と40分、楽しく上手に聞かせた。
ここで、立ち上がった一人の記者が、百目鬼恭三郎。「部長のお話には五つ、間違いがあります」と、丁寧に反証を挙げて誤りを指摘した。
するともう一人の記者・森本哲郎が立ち上がり、「百目鬼君が言い残した誤りがもう五つあります」と、礼儀正しく説明した。ここで扇谷が一言。「君たちはずいぶん下らないことを知ってるね」
その後、扇谷は二人の記者を高く評価し重用した。これだけでも随分楽しい話ですが、この扇谷の今は存在しない挨拶を、たぶんこんなだっただろうと推測して、でっち上げてあるところが「この本」の凄さ。
これ以外にも「どうでもよさ」や「話の本筋からの外れ方」が絶妙の「打ち上げ花火」が17本。ちなみに「花火屋の大将」の話は出てきませんので念のため。
- 2003/2/22 「釈迦」 瀬戸内寂聴 新潮社
- 宗教系は好きだし、評価も高かったので読んだけれども、はっきり言って心に響くものはありませんでした。ただ一つだけ気になったこと。
釈迦と養母の間に不倫関係があって、異母弟が実は息子だった。ということをほのめかしているのか、そうではないのか。(特に妻の死後の懺悔のあたり)
そういう風に捉えてしまう人間の煩悩の浅はかさを戒めるための試金石として、意図的に設定してあるのか。そんなことはな〜んも考えていないのか。
まあ、信仰というのはそんなもんだ。ということを言いたいのだとしたら、見掛けより深い本なのかもしれないなぁ。
- 2003/2/21 「しょっぱいドライブ」 大道珠貴 文芸春秋
- 本年度の直木賞候補者は、石田衣良、奥田英朗、角田光代、京極夏彦、松井今朝子、横山秀夫という錚々たる面々で、
「誰が取ってもおかしくない」という状況の中、評価が割れ、結局「受賞作なし」という結果になってしまった。(別に全員受賞でもいいじゃん)
芥川賞の方は逆に「誰が取ってもおかしい」という雰囲気だったようで(それなら「受賞作なし」だろうが)これがその本年度芥川賞受賞作。
別に駄作だとまでは言わないけれど(実際、読んだわけだしね)それ以上コメントのしようがない。
- 2003/2/19 「2次元より平らな世界」 Iスチュアート 早川書房
- 原題は「Flatterland」。120年前に、EAアボットが書いた「多次元平面国」(東京図書 原題「Flatland」)の続編を意図している。
前作が「2次元世界の住人から見た3次元世界」であったのに対し(未だに我々一般人にとって3次元は2次元に投影して理解せざるを得ないと言う意味で、120年前ということを考えればそれでも充分に先進的であるが)
この1世紀のあいだの幾何学の発展を反映して、この本が描く世界の多様性は新鮮な驚きに満ちている。(多次元空間、フラクタル、トポロジー、射影幾何学、符号理論、ブラックホールなど)
そういう意味で、同じ2次元世界の住人でも「フラット」の比較級「フラッター」な世界に住んでいるということなのである。
タイムトラベルの話など、概念そのものは高級であるとしても、登場人物の命名一つとっても、ウィットにあふれる著者のサービス精神により、楽しく読めること請け合いである。
- 2003/2/14 「産廃コネクション」 石渡正佳 WAVE出版
- 有名な「豊島の不法投棄事件」は、その世界では、氷山の一角が現れた「不運な出来事」にすぎない。リサイクル法の施行に伴い、ある意味ではサクセスの夢につながる「環境分野」の「成長産業」。
しかし具体的なデータに基づき、冷静に検討してみれば、「奇麗事」のシステムはどこかで破綻していなければ、辻褄が合わない。その辻褄合わせの迷宮の中で、地下組織が暗躍し、ブラックマネーが動く。
この本を読んで感心したことが2つある。第1は、著者が千葉県庁に所属する現役の産廃Gメンであるということ。(堂本知事誕生の成果と言えるが、このところの不穏な情勢の中で、生命の危険はないのだろうか?)
そして第2は、容器リサイクル法の施行に伴いまたも誕生した指定法人「日本容器包装リサイクル協会」という合法的税金着服システムを考え出した、官僚共の「恐るべき頭の良さ」と「どうしようもない品性の低さ」である。
- 2003/2/13 「舞踏会へ向かう三人の農夫」 Rパワーズ みすず書房
- A・ザンダーの「舞踏会へ向かう三人の農夫」という有名な写真にまつわる「私」の論考。W・ベンヤミンの「複製芸術論」や、観察者の存在が事象に影響を及ぼすと言う「量子力学論」等々、驚異的な博識が披露される。これが第1の物語。
写真の中の農夫が、名前と個性を与えられ、第一次世界大戦に翻弄されることになる、それぞれの人生を歩みだすのが、第2の物語。こうした「劇中劇」「メタ物語」は、最近よく見るといっていいくらいであるが、
これにもう一つ別の写真とは何の関係もなさそうな第3の物語(これがコミカルでとても軽快ないい味)が展開され、しかもそれが最終的には他の物語と複雑に絡み合い、収束していくというのが、たまらなく魅力的。
「どの本を読め?」でお勧めいただいた、田中純さん、どうも有り難うございました。
- 2003/2/10 「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」 橘玲 幻冬舎
- 「お金持ち」になるのは簡単で「収入を増やす」「支出を減らす」「運用利回りを上げる」の3つの方法しかない。
最近巷にあふれる「金持ち本」もこのどれか(或いはすべて)に分類されるが、その胡散臭さは、「あなたもお金持ちになれる」という本は「書いた人だけが儲かる」ところにある。
誰だってお金持ちになりたいだろうが「誰でもお金持ちになれる」なら結果は「誰もお金持ちになれない」ことと同じであるし、「あなただけがお金持ちになれる」という本は書かない方が儲かるはずだ。
さらに言えば「あなたも(勉強しさえすれば)大学に合格できる」「あなたも(努力さえすれば)やせられる」という本は、まことに正論ではあるが、えてして( )内が省略されがちなのであり、
実際には、こういう本は努力したくない人が読む場合が多いので、まったく無意味なものになるということなのである。
でこの本の場合、読んでもお金持ちにはなれないと思うけれど、「支出を減らす」ためのファイナンシャルプランの王道について、とても参考になる好著であると思う。
- 2003/2/6 「呪の思想」 白川静 梅原猛 平凡社
- 「字統・字訓・字通」で名高い「漢字学」の孤高の巨人・白川静に、「隠された十字架」に代表される「怨霊史観」の異端の奇人・梅原猛が問う。それだけでスリリングと言うものだ。
「呪」の「口」は、神への祝詞を入れる器。「兄」は「口」を捧げる人である。「言」は「辛+口」神への祈り。誓いを破れば「辛(はり)」で入墨の刑を受けてもいいという覚悟の「問い」。
「音」は神からの「言」への答え。「口」の中に神意「一」が告げられる。・・・ク〜ッ、たまらん。「字統・字訓・字通」の白川漢字学「字書三部作」暇ができたらじっくり読みたい優先順位第一位である。
問題は一体いつになったら暇になるのだろうかということ (T_T)/~~~
- 2003/2/2 「戦争中毒」 Jアンドレアス 合同出版
- 「アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由」という副題がつけられたこの小冊子は、戦争に群がり、利権をむさぼる企業・個人がすべて実名で、
その信じられないような「言い草」もすべて「引用文献」リスト付きという恐るべき「漫画」です。それにしても、最近本屋さんには「アメリカなんて大嫌い!」本が溢れるようになりましたが
どれも中々の読み応えのような噂です。
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