- 2003/1/31 「外断熱は日本のマンションをどこまで変えるか」 山岡淳一郎 日本実業出版社
- これも、何度かご紹介した「外断熱」関連の本で、ここでご紹介するような本ではないような気もしますが一言だけ。
内容はともかく、一人の男が自らの信念に基づいてここまでやってしまう(やろうとしている段階ですが)という、テーマソング「地上の星」が流れてきそうなお話ですが、
こんな面白みのない中味にも拘らず、そこそこ感動的に読ませてくれるというのは、著者の腕なのか?
- 2003/1/30 「脳が殺す」 JHピンカス 光文社
- 「ある人間を凶悪殺人犯に仕立て上げる『真の動機』は『児童期の虐待』『精神疾患』『脳前頭葉の損傷』の三要素の相互作用である。」
これが、神経内科の専門医として関わった数多くの症例の検討を通して、著者が提示した確固たるデータに基づく仮説である。
もちろん『児童期に虐待を受けた人』や『精神疾患(特に統合失調症)を持つ人』がすべて殺人鬼になるわけではない。そうならない人の方がはるかに多いというのは明らかな事実である。
しかし、であるとすれば、冒頭のような三要素を抱えた殺人者が犯した罪は、問うべきなのか?問うべきではないのか?いずれにしても、「犯罪先進国」アメリカにおいては、『幼児虐待』を撲滅しようという試みがスタートしている。
- 2003/1/25 「期間限定の思想」 内田樹 晶文社
- 2003/1/22 「「おじさん」的思考」 内田樹 晶文社
- 「あなたたちは間違ってやしない。働くことはそれ自体よいことだし(所々中略)妻は優しく美しく慎ましい方がいいに決まっているし、子供は素直で愉快で快活で家族思いである方がよい。
「今よりましな」状態めざして、コミュニケーションの回路を立ち上げるのは「よいこと」だ。」
他者を「信じるということ」を止めてしまった「クール」な世の中で苦戦を強いられている「日本の正しいおじさん」への応援歌。
「おじさんたちよ、よく聞いて欲しい。あなたがたが信じてきたもの、信じようとしてきたものはいま踏みにじられ、打ち捨てられようとしている。しかも、それに代わるものが示されないままに。それをそのまま見捨てるに任せるつもりなのか。」
本を読んでこれほど共感に胸震える思いをしたのは久しぶりであった。ということは私も「日本の正しいおじさん」であることを確信した次第。
- 2003/1/22 「こんな社長が会社をつぶす」 野口誠一 日本実業出版社
- 「八起会」で著名な野口会長の著書。ある会合の例会講師をお願いした関係で読んだので、ここで取り上げるような本ではないのですが、一言だけ。
会社が絶好調になって有頂天となり、お決まりの「酒」「博打」「女」にはまって気がついてみたら倒産。という「体験談」が主流を占めているわけですが、どうも最近は、「苦労して、苦労して、いい目を見ずに倒産」というパターンが多いような気がします。
「酒」「博打」「女」にはまっておられるような方々はとても元気で、第一それでつぶれたんならしょうがないという諦めもつくしね。というのは僻みでしょうか?
- 2003/1/19 「火怨」 高橋克彦 講談社文庫
- 辺境の蛮族と蔑視され、無視されてきた陸奥の民「蝦夷」。黄金を求めて襲い掛かる朝廷の大軍に、民族の誇りをかけて立ち上がった、その若きリーダー「アテルイ」の熱き闘いの記録。
「勝つこと=戦い続けること」であるが故に「勝つこと」を目的としない最後の知略あふれる闘いの結末には目頭が熱くなること請け合いです。
(これまでは、インカ帝国みたいに、謀略によっておびき寄せられ、暗殺された大馬鹿のお人好し、みたいな印象を持っていました。)
小学校の歴史の時間のわが英雄?「征夷大将軍・坂上田村麻呂」もライバルとして登場、こんなやつだったのか!といまさらながら親近感など覚えてしまいました。
- 2003/1/16 「北のサラムたち」 石丸次郎 インフォバーン
- 「拉致事件」を契機に「北」を巡る論説には不穏なものが付きまとうようになりました。「拉致」をいうなら「強制連行」はどうなるんだ。
というのが「議論のすり替え」であることは間違いありませんが、「拉致」を口実に「過去」の楔を断ち切ろうとするのであれば「目糞鼻糞」の類であるようにも感じています。
様々な問題を絡めて討議することなく、一つずつ確実に解決していくためには、正確な情報の入手が欠かせません。そういう意味では最近のテレビの特にワイドショーの報道のあり方には大いに疑問があります。
(とはいうもののほとんど見ていないので、そんな気がするという意味ですが)「北」に関する一つの情報として、目を通されることをお勧めします。
- 2003/1/13 「宇宙のエンドゲーム」 Fアダムズ Gラフリン 徳間書店
- 宇宙の年齢を現すのに「10のn乗」年を「n歳」であると表記することにすれば(100億年=10歳ということになる)
この本は「−50歳から100歳まで、そしてそれ以降」の「われわれ」の宇宙(生命と物質)の想像図を,理論的根拠の裏付けに基づいて、確信的に描き出したものである。
ただし、ここでいう「われわれ」の中では、「私個人」や「日本」は問題外として、「地球」や「太陽系が所属する銀河系」すらが単なる通行人として顔を出すに過ぎない。
大数の例としてよくあげられる砂粒の数は、世界中のすべての海岸を寄せ集めても「わずかに」10の23乗個。100歳の宇宙というのは10の100乗年なのである。
日常の些事に疲れた時の気分転換に最適の一冊であることを保証する。
- 2003/1/5 「GOTH」 乙一 角川書店
- 「GOTH」はゴシック(Gothic)の略。西洋暗黒趣味(たとえばドラキュラ風の俗悪怪奇)。若い人達の間でアイドル的な存在となっているらしい「乙一(おついち)」
を初っ端に経験するための本としては相応しくなかったようだ。(ちなみにペンネームの由来は、高校生で小説を書き始めたときに持っていた電卓がZ1(ゼットワン)だったということらしい。)
本の中味は「リストカット事件」などホラー風だけれども、「記憶」に代表されるように、どの作品も意表をつく(といいつつ、この先を読むと意表をつかれなくなるので、読もうと思っている人はここでストップ!)
「入れ替わり物」と見れば本格推理の範疇かも。読み始めの印象が伊藤潤二風だったので、最後まで「うずまき」(名作漫画)のキャラクターを思い描きながら読んでしまいました。
- 2003/1/2 「「空海の風景」を旅する」 NHK取材班 中央公論新社
- 私の司馬遼太郎初体験が「空海の風景」で、しかも司馬を読みたいというより、空海への興味から読んだということもあって、その印象はいまだに強烈なものがある。空海は恐らく現在に至るまでの日本史上における最大の天才であり、
今後これを凌ぐ才能が、現状のような日本に誕生するとはとても思えないので、空前絶後の才能と言い切ってしまっていいだろう。そして「空海の風景」もまた司馬作品の中である意味「至高の作品」というべきものである。
こういう作品を、こういう丁寧な作り方をしてくれるところに、NHKの存在意義があるので、視聴取料の支払い拒絶はやめましょうね。
(この番組が放映されていた2002年1月4、5日は、実は父が東京で急死し、金沢へ雪道を陸送されていた日と重なっているため、当然番組は見ていません。再放送を強く希望します。)
- 2003/1/1 「マドンナ」 奥田英朗 講談社
- 奥田英朗の短編集第二弾は、中年サラリーマンの悲哀編。新入りの部下に心ときめかせ、息子の突然の反乱に自らの出世レースを重ね合わせて心戸惑わし、同年の女性上司のやり方に心取り乱す。
一番心に応えたのは「総務は女房」。「総務と女房に勝ってはいけない!」勝てないのではない。「どうだ、俺の勝ちだぞ!」と意気込んでみたところでしょうがないということなのだ。
とはいえ、経験的に言うと、この戦術もあまり度を過ごすと、そのうち「どうせ、本当は自分は悪くないと思っているんでしょ!」とかえって火に油を注ぐこともありますので、ご注意下さい。
- 2003/1/1 「火山に恋して」 Sソンタグ みすず書房
- 時あたかも、イギリスがナポレオンの脅威に晒されていたフランス革命下。革命と反革命の渦中におかれたイタリアはナポリを舞台に、英国公使ハミルトン卿と、その妻(絶世の美女)エマ、そしてネルソン提督の奇妙な三角関係(公然たる不倫!)という史実
が題材。そしてこの世紀の大ロマンスを著したのがあの「反解釈」のスーザン・ソンタグとくれば、これはもう「傑作」は保証されているわけであります。そして、実際に読んでみると、これは歴史を批評しようという知的好奇心にあふれた試みなのでありました。
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