- 2002/10/28 「南の島の星の砂」 Cocco 河出書房新社
- 浅井健一、中村一義、UAなどを、車載CDに指定してくる高三の娘の課題曲の中に、確かCoccoもあったので、随分マイナーな人なのだろうと思っていました。
今回、ベストセラーとなったこの本は、そんな私の思い込みを軽々と超えて、多才なアーティストという今時の若者のヒーローというものに対する考え方を知ったような気がします。
ゴッホ風のタッチがなかなかいけている絵本です。
- 2002/10/24 「00年代の格差ゲーム」 佐藤俊樹 中央公論新社
- 不平等には二種類ある。「結果の不平等」と、「機会の不平等」。「結果の不平等」とは「人が何を持てるか」であり、持てざる人は「弱者」となる。
「機会の不平等」とは「人が別の人と比べて何ができるか」であり、できざる人は「敗者」となる。つまり機会の平等原理を掲げる社会には、他人を否定する強い力が潜んでいるということ。
「弱者」が不当な目にあっている被害者であるとすれば、「敗者」はゲームにまともに参加できない可哀想な人にすぎない。
結果の平等から機会の平等への転換は、富の分配のあり方はまったく変わっていないにも拘らず、「平等ゲーム」(実際の格差は承知の上で誰もが中流意識を持つような)から「格差ゲーム」
(実際の格差にむしろ過剰な意味を見出そうとする)へとルールを変えてしまった。「不平等社会日本」(前著:中公新書)の軋みがそこにある。
- 2002/10/23 「儲けのカラクリ」 インタービジョン21編 三笠書房
- 散髪屋さんでいつも不思議に思っていたのは、一人当たりこの値段で、一体、一月何人来客があればペイするのだろうか?ということだった。(つまり、こんなんで食っていけるのかなぁ?という余計なお世話)
しかし、その原価の構造を知れば、1時間半で3800円の予約客中心の店があれば、30分1500円で、時間を掛けたくないフリの客の厚い需要に対応できれば、充分成立することは明らかである。
この本は、以下同様にその他様々な商売の原価の構造を明らかにした画期的な本、自分の商売の原価構造の把握から、今後の戦略を探るヒントにもなる。65円ハンバーグの秘密もあっさり解明されている。
- 2002/10/19 「天才建築家ブルネレスキ」 Rキング 東京書籍
- 副題「フィレンツェ・花のドームはいかにして建設されたか」というこの本は、フィレンツェ大聖堂のドーム建立にまつわる、上質の歴史ノンフィクションである。かってない規模のそのドームは、もちろん図面もあり、
既に下部構造としての大聖堂の建築工事は始まっているにも拘らず、その架構方法を誰一人として思いつかず、100年たっても未完成という代物だった。
「ブルネレスキ」と聞けば、建築学科で歴史を学んだものとしては、大建築家として名前は知っていたけれど、何となく「設計者」というイメージで理解していた。
しかし、当時の建築技術のレベルを考えれば、巨大建築物の構築に関わるということは、その架構方法(今で言う施工図)の発案は言うに及ばず、資材を荷揚げする揚重機の発明、果ては山から切り出す巨大大理石の運搬技術の創案まで、
トータルに指揮を取らねばならないことなど、当然のことにも拘らず、思いも及ばぬことだった。つまり当時の建築家とは、土木建築設計総合請負の「一人ゼネコン」というべきものであったのだろう。
- 2002/10/12 「戦下のレシピ」 斉藤美奈子 岩波アクティブ新書
- 昭和初期から日中戦争・太平洋戦争・空襲そして焼け跡へと、当時の婦人雑誌に紹介された料理の作り方を通して、「飢えた時代」の日本の食の世界を紹介してくれるユニークな本。
都会の家庭に洋食(カレー・コロッケ・ハンバーグ)が普及し始めた昭和初期の意外にモダンな食文化の紹介から始まり、日中戦争勃発・節米運動のあたりは、「米」の代用食はパン・うどん・ホットケーキなど、「パンが無いならお菓子を食べよ」に近い余裕の時代。
それが一気に道端の雑草すら野菜となる事態に追い込まれていく過程には、深刻さを超えて滑稽味さえ感じてしまった。
- 2002/10/11 「晴子情歌」 高村薫 新潮社
- もうすぐ母の三回忌を迎える私にとって、この重い本を読み終えて思うことは、私にとってはずっと母だったその母は、母にしてみればもちろん初めから母であったはずもなく、
母には母の人生があったのだという、当たり前の事実だった。「純文学?」へと舵を切った高村薫への評価は、続編を待ちたいと思うけれど、くだらない話を一つだけ。
「ハルコジョーカ」という題名は「レディージョーカー」からの洒落なのか?高村さんのあの眉間の皺と、二の腕の青筋からは想像できないけれど・・・
- 2002/10/8 「知識ゼロからの現代史入門」 青木裕司 幻冬舎
- 「青木の世界史講義」で著名な河合塾講師による「第二次世界大戦後」の紛争史の解説。米ソの冷戦とソ連の崩壊、激動の中国史、そしてパレスチナ問題が取り上げられている。
数ある報道番組の中で「週間こどもニュース」が、もっとも核心をついた、わかりやすい解説であるようなのは、視聴者に併せて情報のレベルを落としているからではない。
わかりにくい問題を、判り易く説明するためには、説明する方がことの本質を充分にわかっている必要があるわけで、この「判り易く説明するため」のプロセスの中にその根拠があるとにらんでいる。
とすれば、塾の人気講師というのは、百戦錬磨のプロ中のプロということになるのだろう。
- 2002/10/2 「「田中真紀子」研究」 立花隆 文芸春秋
- これは、田中真紀子という一人の政治家を研究した本ではなく、「田中真紀子」という名前で想起される、このところの一連の騒動を通して、現代の自民党政治が「角栄」の時代から本質的に
何も変わっていないということを論じた本である。つまり、真の政治改革を目指すのであれば、田中角栄の時代に遡って問題点を洗い出してこなければならないという意味で、名著「田中角栄研究」の続編と考えた方がよいのかもしれない。
それにしても、ことの善悪は抜きにして、人間的な魅力あるいは器の大きさで、角栄と真紀子の質の違いを思い知らされる本ではあった。
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