- 2001/8/27 「中陰の花」 玄侑宗久 文藝春秋
- 本年度芥川賞受賞作。作者は現役?の禅宗の僧侶。素人?の宗教的体験に対する宗教者の立場は、民間療法の隆盛に対する医者の立場に似て、興味深いものがあるが、
究極的には「何も語らず無視する」というのがプロ?側のありがちな反応のなかで、これはある意味でタブー(或いは思い込み)への挑戦的作品と思う。
小説としてよりも、四十九日と光速の話など、仏教的な解釈の説明に科学的な面白さを感じた。
- 2001/8/26 「あふれた愛」 天童荒太 集英社
- 「永遠の仔」の副産物として、作者からあふれだしてきた4つの小さな物語は、重すぎて発散できなかった「愛」なるものが、
どろりと心の奥底に澱のように沈みこんできて、一話ずつは一気に読めるけれども、立て続けには読み通す気にならない疲労感がある。
ハッピィエンドにみえて、それは一瞬の晴れ間にすぎず、行く手には再び黒い雲が立ち込めていることを予感せざるを得ないから。
なんか、今のように逼塞した経済状況の中では、あんまり読みたくない部類の本ですね。
- 2001/8/22 「少年法(やわらかめ)」 新保信長 アスペクト
- 続発する少年犯罪と、加害者に比べて軽視されてきた被害者側の権利擁護問題から、少年法が改正された。
といっても、どこがどう改正されたのか、読んでみてもよく分からん。そもそも読もうという気にもならないほど、悪文の条文を、
現代口語訳(やわらかめ)し、解説を試みた画期的な本。
「少年法」とはそもそも、犯罪少年を裁くというよりは、未来ある少年の更生に資するという目的を有するものであるが、
ではその犯罪少年によって奪われた被害者の未来はどう位置付けるのか。というのがこのところの論議でしょうが、
この本はむしろ、あらゆるケースを想定して解釈の余地なく体系付けるために悪文とならざるを得ない法律の条文の問題点と、
それでも、最終的判決は判例という前例主義により、解釈の余地だらけという矛盾を感じさせ、ならばいっそのこと誰でも読みやすい条文に改めるべきでは、と思わせてくれる本でした。
- 2001/8/19 「続巷説百物語」 京極夏彦 角川書店
- 「チリーン」と鈴が鳴って、憑き物をおとす。「妖怪退治」の名を借りた、いわば勧善懲悪物の胸のすく連作。
さすがに京極堂といったところですが、この又市シリーズにしても、本家京極堂シリーズにしても、連作の仕掛けとしての登場人物の再登場、伏線の後貼り?
がかえってあだになって、どんどん創作を難しくしているような気が・・・そういえば本家の方は「宴の始末」以降予告のみで待望の次回作は全く影も形も見えないし、
このシリーズも何となく無理やり終わったような感じで(後は「帰ってきた又市」なんていうのもね?)
「ルー=ガルー」なんて変なシリーズも開始して、大ファンとしては少し心配な今日この頃です。
- 2001/8/14 「光の教会 安藤忠雄の現場」 平松剛 建築資料研究社
- 「そんなに予算ないの?・・・ほんならええもんがでけるかもしれんなぁ」
今や世界の安藤忠雄が、まさに売り出し中にてがけたその教会は、トレードマークともいうべきコンクリート打ち放しの壁に十文字にスリット状の窓をあけ、光の十字架を実現しようというものだった。
建設業が本業の私にとっては、とても面白く、かつ身につまされながら読まされた本でした。
施主と設計者と施工業者の、三者それぞれの思惑と葛藤のなかで、一つの「もの」を作り上げていこうという想いが合わされば、予算のないことなど一つの条件にすぎないという幸せな出会い。
予算はないよりあったほうがいいに決まっているけれど、「予算がないので・・・」という制約条件は、互いの思いやりや、どうにかしてという工夫をうみ、かえってよい結果につながる。
こともあるというのは、建設業者としての私にも経験があることです。
「建築する」ということがどういうことであるのかを知りたい全ての人に、お奨めの一冊です。
- 2001/8/8 「模倣犯」 宮部みゆき 小学館
- 長い!長すぎる!実際、寝ながら読んで居眠りしたら頭をおしつぶされそうな厚みの本が上・下2巻あるわけなので、長くて当然とはいえ、
それ以上に長く感じてしまうのは何故なのだろうか。ストーリーがそんなに複雑なわけではない。
最近現実に起こった犯罪事件に似たような事件がメインストリームとしてあり、それを被害者の家族、発見者、刑事、ルポライター、犯人、共犯者それぞれの立場から描く。
つまり同じシーンを別々の角度から撮影した映画フィルムを観るようなもの(ニコラス・ケイジの「スネークアイ」という映画がありましたね)で、
刑事物、推理物、ホラー、トラウマ物、人情編、冤罪物等々、違った味わい方が可能になっているわけです。
しかし、「一粒で二度おいしい」のがえてして「二度味わいたいほどのうまさではない」ように、ある意味で中途半端で(それぞれの分野では二流ということ)
十種競技の金メダリストが個別種目ではメダリストになれないような部分に物足りなさを感じてしまう。それがこの長さの遠因ではないかと思います。
とはいえ、面白いことは保証できますので、未読の方はぜひどうぞ。
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