"To be, or not to be ー that is the question."
<生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。>
(「生か、死か、それが疑問だ。」福田恒存訳)
という「名台詞」は誰でも知っているが、通しで読んだという人は意外に少ないのではと、読書会のテーマ本に選ばれたので、数十年ぶりに再読することになった。
父王の亡霊から、自らの死因が叔父の謀略であったことを知らされたデンマーク王子・ハムレットが、母親まで奪って王位に就いた叔父への復讐を企てる戯曲だが、
思わぬ復讐の使命を背負うことになってしまった、因果な我が身を呪いながらも、「さ、行こう」とその宿命を受け止め、前に進んでいくことを決意する、 "The time is out of joint."
<この世の関節が外れている。>
(「この世の関節がはずれてしまったのだ。」福田恒存訳)
夫の死後涙も乾かぬ間に、その弟との「不義の床に駆けつけた」と母を詰りながら、女性という性のもろさを嘆くことで、息子としての複雑な感情を吐露してしまう、 "Frailty, thy name is woman!"
<弱きもの!汝の名は女なり。>
(「たわいのない、それが女というものか!」福田恒存訳)
狂気を装うハムレットの変貌に戸惑う、恋人のオフィーリアに「もう男と関わるな」と絶縁を告げながら、安全な場所へ避難させようという意図も透けてみえる、 "Get thee to a nunnery."
<修道院へ行け。>
(「尼寺へ行け。」福田恒存訳)
復讐劇の終局に向けて、事実上の決闘に臨むことになったハムレットは、「Let be(所詮、あなたまかせ)」の心境にいたることになる。 "There’s a special providence in the fall of a sparrow."
<雀一羽落ちるのも神の摂理。>
(「一羽の雀が落ちるのも神の摂理。」福田恒存訳)
などなど、いくつもの小さなドラマに織り込まれた、数多の名台詞を残して、このシェイクスピア悲劇の最高傑作は、大団円へとなだれ込んでいくのである。
結局、"To be, or not to be"とは、「生か、死か」ではなく、「このままでよいか、それではだめか」を問い続けた男の、葛藤のドラマだったのではないだろうか? "The rest is silence. (Dies)"
<残るは沈黙。(死)>
(「もう、何も言わぬ。(死ぬ)」福田恒存訳)