2000年6〜7月読書日記 | 2000年7月29日発表 |
「家族狩り」 天童荒太 新潮社 |
「永遠の仔」の前作。キレる子供たちとなすすべもない家族。一見類型的なパターンの繰り返しのように見えて、崩壊していく100の家族があればそこには100の理由があるということに気付く。存在の全てを肯定して受け入れる「愛」。映画「グッドウィルハンティング」の世界。一気に読ませる筆力はさすが。 |
「経済ってそういうことだったのか会議」 竹中平蔵、佐藤雅彦 日経新聞社 |
「経済のニュースがおもしろいほどわかる本」(細野真宏、中経出版)に代表される「経済」入門書の大ブーム。例えば「インフレ」という一言で、その本来の意味を理解していなくても、「あれがこうなって、これがああなる」という社会の動きを説明抜きで位置付けてしまえるという「経済」の決め事さえつかんでしまえば、いっぱしの「経済通」を気取ることが出来る(一部専門家と名乗る人もその程度)ということが分かる本。従って、内容そのものはたいしたことが書いてあるわけでないのは「受験参考書」と大差ない。(細野氏は塾教師です)「文藝春秋」7月号の竹中・細野対談の方が読み応えがあると思う。 |
「もっとあなたの会社が90日でもうかる」 神田昌典 フォレスト出版 |
こちらは「経営」の本。前作「あなたの会社が〜」で展開された「感情マーケッティング論」がとてもおもしろくこの欄で取り上げずに実践に移していたわけですが、「もっと〜」の方は反応してきた顧客をファンとして固定する戦略論。読んでいるだけでいけそうなアイディアがこんなにどんどん浮かんでくる「経営」の本は珍しい。ただしこの本自体が神田氏の顧客獲得作戦の一環であることは間違いなく、それに気付いた時点で醒めることなくガンガン行けるかが勝負。(私は醒めた。) |
「被差別部落の青春」 角岡伸彦 講談社 |
「知らない」人にまで知らせる必要はないのか、「よく知らない」ことが余計に差別の温床になるのか。在日外国人がナショナリティへの誇りから「露出」し始めたように、「ゴーマニズム」的に「出でよ部落のヒーロー」が正解なのか。いずれにしろ、広く議論を巻き起こすことの是非は別にして、歴史的な背景を踏まえた正確な理解と同時に、現状の一面を知ることもとても大切だと感じる。「安い家賃で生活できてラッキー」という割り切り型の出現にはちょっと驚いた。 |
「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」 遥洋子 筑摩書房 |
「フェミニズム」のカリスマ上野千鶴子。「スカートの下の劇場」以来私の注目ランプはつきっぱなしなのだけれど、「差別はしないが区別はする」という私にとって「区別は差別以上に根源的な差別」なのだそうで、上野氏とディベートする機会があればボコボコにされそうな気配。「腹をいためた我が子を殺す母親なんていない」という「母性本能」説は幻想で、「父親が我が子を殺すならば母親も殺す」と読んだ日に、「薬物混入投与事件」が発生した。上野千鶴子は東大で「ケンカ」を教えているわけではないが、著者が勝手に学んだ「ケンカに勝つ10の方法」はディベート必勝法として秀逸。 |
「朗読者」 Bシュリンク 新潮社 |
一種異常でそれだけに鮮烈な「愛」の形の一つの象徴としてあった「朗読」という行為が、用意周到にちりばめられたエピソードという伏線の中で、じつは「文盲」なのではないかという疑念を生む。予想外のストーリー展開となる後半部分では、今度は「朗読」という行為が、共有する歴史の確認と「謝罪」という献身的愛に自己満足的に溺れる一方通行的暴力と、傷つけられた自尊心による破綻の象徴となる。これは私の読み方で、人によっていろんな読み方が可能なところにこの本がベストセラーとなった理由がある。 |