2000年4〜5月読書日記 | 2000年5月13日発表 |
「ボーンコレクター」 Jディーバー 文藝春秋 |
首から上と左手薬指のみが動くという、典型的車椅子探偵物。鑑識のスペシャリストという設定が新鮮。犯行の異常性、謎解きの妙味、伏線の張り方、背景のリアリティ、どれをとっても一級品。残念ながら現在上映中の映画の方は未見。 |
「脳を鍛える」 立花隆 新潮社 |
東京大学教養課程での特別講義を基にした書下ろし。「ゆとり」という名の幼稚化による小・中・高校の学習内容の希薄化、大学生の学力の低下には目を覆いたくなるものがあるが、大学で真剣に学ぼうとしていた人の比率は昔とそれほど変わっていないように思う。入学を最終目的とした受験テクニックの蓄積を「勉強」だと教える側自体が認めてしまっているところに、最大の問題点がある。経験的に言わせてもらえば、塾に行こうが行くまいが結果に大差はない。話が脇道にそれたが、本の内容はとても面白い。 |
「聖の青春」 大崎善生 講談社 |
幼少時にネフローゼを患い、不治の病と格闘しながら29歳で夭逝した天才棋士、村山聖。七冠王羽生と唯一互角に渡り合えた、その生涯は壮絶なエピソードに満ちている。誤解を恐れずに言えば、「五体不満足」が誰の目にも明らかな障害をいわば「売り物」にして前向きに乗り超えようとしているのだとすれば、「聖の青春」は決して乗り超えることのできない障害を自らの懐深くに飼いならし、その思いをバネとして短く駆け抜けたということだろう。 |
「<神>の証明」 落合仁司 講談社現代新書 |
<神>を無限集合とおくと、<神>が人(キリスト等)となること、人が<神>となること(菩薩等)、唯一である神があらゆる人に臨在しうること(三位一体等)、宗教上の論争を含めた様々な議論が「集合論」という数学により合理的に証明されてしまうという快著。決してオカルト物ではなく、極めて学問的な話なので念のため。 |
「理想の病院」 吉原清児 講談社現代新書 |
日本の名医等の紹介書は多いが、病院自体の「ホスピタリティ」を評価している所が買い。顧客満足という意味でこれほど遅れている業界も少ないと思うが、聖域という幻想にあぐらをかく病院と半信半疑で命を預けるしかない患者と家族という図式は確実に崩れ始めている。それにしても金沢に理想の病院の少ないこと。 |
「やっと名医をつかまえた」 下田治美 新潮社 |
上記の実践編。脳腫瘍の摘出手術を翌日に控えて、このままでは殺されると病院を脱走する場面は拍手喝采物。自分の病気は自分で治すと奔走し、名医と呼ばれる医師の名医度を検証。最後は面接試験で医師を選ぶ。考えてみれば、私だって自分の同級生だった医者に手術されるのは過去を知っているだけにちょっと怖い? |